獣医師が転職を考える理由は次の3つに分けられます。
- 労働環境の改善を求めて
- スキルアップのため
- 異職種への転職
労働環境の改善やスキルアップのための転職であれば、同職種内の転職なので比較的情報収集しやすいでしょう。
しかし異職種(同じ獣医師職だけど仕事内容が異なる)となると、獣医師の場合、集団母数が少ない上に職業が多岐にわたるため情報収集がとてもしにくいと感じます。
だからこそ友だちや先輩の口コミに頼りがちですよね^^;
この記事では、次の就職先として異職種を選ぶ人のために、代表的な転職先の仕事内容や収入の目安について解説します。
- 獣医師が次の就職先として選ぶ代表的な職業の仕事内容と収入の目安
- それぞれの職種へ転職する時に注意したいこと
この記事を読むと、転職先としてどんな選択肢があるのか、その職業を選んだ時に注意したいポイントがわかります。
転職先に異職種を検討している人は、ぜひ参考にしてください!
転職を決意していても、事前準備なしに行動に移してしまうと失敗する確率がとても高いです。
次の記事では、転職をする前にやっておくべきことについて解説しているので、ぜひあわせて読んでみてください!
- 動物病院と公務員で3回の転職を経験
- 動物病院勤務では、平均14時間におよぶ長時間労働やトップダウンの経営方針に悩む。
- 結婚を機に退職し、現在は獣医師のキャリア形成について発信。
- 2児の母。
就職先①:動物病院
就職先の1つ目は、動物病院です。
仕事内容は、犬猫など小動物の病気の治療や予防です。
病気を治療することで動物が元気になる姿を見ることができたり、飼い主さんに感謝の言葉をもらえたり、一番やりがいを感じることができる仕事なのではないかと思います。
ただ、臨床獣医師の人ももちろんですが、公務員や一般企業など異職種から転職をする人は一から学ぶ心構えが必要です。
なぜかというと、動物病院は院長の方針によってやり方が千差万別だからです。
まっさらな気持ちで臨まないと「前の病院ではこうだったのに・・・」「聞いていた話だとこうなのに・・・」と、戸惑うことになりかねません。
そして給与体系も公務員や企業のようにしっかりしていないことも多いので、ボーナスがなかったり、勤続が一定の年数になると昇給しなくなったり、毎日のように残業しているのに残業代が出なかったりすることもよくあります。
就職先に選ぶ場合はしっかり実習に行き、その病院のやり方や院長の方針を理解するようにしましょう。
お給料も病院によってばらつきがあります。当たり前ですが、症例数が多く忙しい病院や、当直など夜勤がある病院はお給料も高い傾向にあります。
令和4年の賃金構造基本統計調査によると、
年齢(才) | 所定内実労働時間(時間) | 超過労働時間(時間) | きまって支給する現金給与額(円) | 年間賞与その他特別給与額(円) | 平均年収(円) |
---|---|---|---|---|---|
25~29(27.8) | 169 | 17 | 322,100 | 425,200 | 4,289,200 |
40~44(42.2) | 161 | 11 | 580,800 | 2,530,700 | 9,500,300 |
20代の平均年収が428万円と出ていますが、これは10人以上の企業規模統計なので小規模の動物病院は含まれないことと、一般企業などに勤務する獣医師も含まれるので、私の肌感覚としてはやや高めな印象を受けます。
小~中規模の動物病院における20代臨床獣医師の年収は300~400万円といったところではないかと思います。
40代以降になると、動物病院を開業する人も増えてくるためか平均年収もぐっと高くなります。
所定内実労働時間や超過労働時間も20代が最も高いことを考えると、動物病院は働くことを通して勉強や経験を積むことが求められることがうかがえます。
求人を見ていると月30万~など、高額な給料を提示していることがありますが、社会保険に入っていなかったり、あらかじめ残業代を含めた金額だったりするので、事前にしっかり確認する必要があります。
- 3日以上(できれば1週間ほど)実習に行く
- お給料の内訳をしっかり確認する
- 有休消化率を確認する
- 病院の雰囲気やスタッフ間の人間関係を把握する
- その病院で自分のやりたいことができるか確認する
就職先②:産業動物の診療
就職先の2つ目は、産業動物の診療です。
獣医学生にはよく「大動物」という通称で呼ばれていますが、牛、馬、豚、鶏などの家畜が診療対象となります。
NOSAI(全国農業共済協会)に就職し、家畜共済に加入している家畜の診療を行うケースが一般的で、家畜の病気や怪我の治療をしたり、繁殖業務や伝染病対策などが主な業務となります。
また、診療のミスは農家さんの経営に直結するため、経営管理も仕事の一部といえます。
1日に数十件農家さんを回ることもあり、終わってからも採血した血液の検査、器具の洗浄、カルテを入力したり・・・
難産の世話となると夜中も呼び出されたり、大きな動物を相手にするので体力が必要です。
私の周りでは大動物から転職をした人はいましたが、逆のケースはいませんでした。大動物へ転職するケースは少数派な印象です。
NOSAIの場合、年収に関しては就職した場所によって差があり、北海道はやや高い傾向にあるようです。
例えば、初任給はNOSAIの採用情報を見ると以下のようになっています。
NOSAI北海道 | NOSAIぐんま | NOSAIおおいた | |
---|---|---|---|
基本給 | 253,600円 | 201,200円 | 223,200円(令和2年度) |
その他手当 | 技術手当25,000円 (令和5年度新規採用職員実績) 通勤手当、超過勤務手当 扶養手当、寒冷地手当 | 獣医師手当12,000円 通勤手当、住居手当、地域手当 夜間勤務手当等の各種手当 | 特殊勤務手当50,000円 各種手当 |
賞与 | 年2回 (令和4年度実績4.4カ月) | 年2回 (合計4.45カ月分) | 年2回 (合計4.4カ月) ※総合職の賞与を参考 |
合計 | 284,800円+その他手当 | 213,200円+その他手当(推定) | 273,200円+その他手当(推定) |
この結果から、年収は400万円ほどと推定されます。
社会保険は大部分が整備されているようですが、地域によっては初年度はなかったりするようなのでしっかり確認する必要があります。
産業動物獣医師は不足傾向にあり(地方で顕著)、随時募集、年齢不問の条件の地域も多く見られます。
- 動物病院と同様に体力が必要
- 畜産農家さんとの信頼関係を築くまで大変な場合がある (男性比率が高いため、女性という理由で軽視されがち)
- 募集要項に週休2日、土日休み等の記載があっても緊急手術などで夜間対応や休日出勤がある
- 産休・育休などの福利厚生は整っている
就職先③:公務員
就職先の3つ目は、公務員です。
公務員に転職する場合、地方公務員を選ぶケースが圧倒的に多いですが、国家公務員も30歳までは受験可能です。
ここでは、地方公務員と国家公務員について獣医師の担う仕事内容とお給料について解説したいと思います。
地方公務員
公務員獣医師の道としては、都道府県と市町村に就職する2つの選択肢があります。
食肉衛生検査所でと畜検査員、食鳥検査員として食肉の衛生検査を行ったり、食品安全行政として食中毒対応、飲食店の許認可や監視業務、狂犬病予防法に基づいた犬の登録業務、動物愛護業務、理容美容施設や公衆浴場の許認可も行っています。
県職員は各都道府県にある家畜衛生保健所へ配属されることもあります。
家畜衛生保健所では家畜農家の農場を定期的に訪問して衛生管理指導をしたり、監視伝染病(ヨーネ病、BSE、高病原性鳥インフルエンザなど)の定期検査などを行います。
業務が終われば基本的に定時退社が可能ですが、食中毒が発生したり公衆浴場でレジオネラ菌による感染者が出た場合、苦情対応が入って残業することもあります。
苦情対応で通常業務に手をつけられないと残業になってしまう
ことも・・・涙
給与については各自治体で差があるので一概に言えませんが、私の転職後初任給を公開したいと思います。
私の場合、就職した自治体外から通勤していたので地域手当や通勤手当がついています。
これらの手当てがなければ256,500円、税金などを引かれた後の手取りは213,866円です。
新卒初任給ではないことを考えると、
お世辞にも高給とは言えませんよね^^;
公務員のメリットはやはり定時退社が可能なことと(部署によりますが)福利厚生だと思います。
ワークライフバランスを取りながら働き続けることを重視している場合、第一選択肢にあがる職種です。
国家公務員
国家公務員で獣医師職があるのは、農林水産省と厚生労働省です。
農林水産省では、法の整備や国会対応などを行う本省勤務、家畜の伝染病侵入防止のために空港や港などの最前線で防疫にあたる動物検疫所、動物用医薬品の有効性・安全性の審査や検査を行う動物医薬品研究所などがあります。
それ以外にも地方公共団体や他省庁、国際機関への出向をするケースがあるようです。
ワークライフバランスは男性育休取得率49%(令和2年)、時短勤務や早出・遅出など勤務時間をずらすことができる制度もあり、ライフイベントを通しても働きやすい職場となっています。(参考:農林水産省獣医系技術職員採用試験ガイド2023)
- 給与 213,000円
- 扶養手当 子月額10,000円
- ボーナス 俸給等の約4.3カ月分/年
- 住居手当、通勤手当、地域手当(東京特別区が最高で俸給の20%) など
厚生労働省は、本省勤務では食品安全対策や感染症対策(制度の運用や輸出国との調整など)に携わったり、検疫所では輸入食品の監視や検査業務、地方厚生局では食肉輸出施設査察業務や登録検査機関の監査や指導などを行っています。
デング熱や鳥インフルエンザなどの動物由来感染症の人への感染を未然に防ぐため、輸入管理体制の整備や輸入・監視を行うのも獣医系技官の仕事です。
コロナ感染症が流行り出した頃はきっと大変だったと思います。。。
こちらも、環境省や農林水産省などの他省庁、食品安全委員会、WHOや在外公館など海外機関への出向もあるようです。
ワークライフバランスにも力を入れており、3歳未満の子供がいる場合は超過勤務が免除されたり、小学校就学前の子供がいる場合は育児時間(1日の勤務時間のうち1部の勤務を免除)や時短勤務を設けています。
- 給与 行政職(2号11号俸)216,000円 専門行政職(1号2号俸)217,100円
- 地域、扶養、住居、通勤、期末・勤勉等の諸手当あり
どちらの省庁も勤務時間は1日7時間45分、土日祝日休みとなっていますが、これは原則で本省勤務は特に忙しいのではないかと思います。
というのも、私は地方公務員時代に法律の解釈や通達の内容について、環境省の人と電話やメールで連絡を取り合うことがありました。多くの場合、「こんな時間まで仕事してたの・・・お疲れさま」と思うような時間帯に返信がきていることがよくありました。
動物病院のように誰かから直接感謝される機会はありませんが、食の安全を守ったり、水際で防疫の最前線に立っている、畜産業の発展に貢献しているという意識を持つことができればやりがいのある仕事だと思います。
- 直接動物に関わっていた時のようなやりがいはなくなることを理解する(やりがいの感じ方が変わる)
- 国家公務員や首都圏の地方公務員は年齢制限が低く設定されているため、転職先に考えている場合は早い判断が必要
- 必ずしも希望の部署に配属されない。希望が叶っても周期的に異動がある。
- 部署によっては激務になる可能性もある
就職先➃:民間企業
就職先のつ4目は、民間企業です。
民間企業への就職といいうと、まず初めに思い浮かぶのは製薬会社ではないでしょうか。
しかし転職となると、多くの製薬会社は第二新卒までしか受け入れていないため、製薬会社への転職はあまり現実的ではありません。
製薬会社での獣医師の仕事は、人や動物の医薬品の研究開発や実験動物の管理などが主です。私の先輩は、実験動物を相手にする仕事にやりがいを見出せずに辞めてしまいました。。。
しかし、求人サイトなどを見ていると獣医師が活躍できる企業はたくさんあります。
- ペットフードメーカー:動物病院やペット専門店への営業
- CRO(製薬会社から業務を受託している企業):実験動物の管理
- 製薬企業での医薬品相談窓口:医療従事者からの問い合わせに対応
- 獣医療検査会社:臨床病理医
- ペット保険会社:契約の引受査定、損害調査、保険金支払など
- 獣医系専門雑誌やサイト:メディカルライター
私は自分が転職活動をするまで、獣医師が活躍できる場がこんなにたくさんあることを知りませんでした。
学生の頃は、動物病院に行くか、公務員になるか、製薬会社に就職するか3択で考えていました。(視野狭すぎですね・・・)
また、民間企業はワークライフバランスを取りつつ高収入を望むことも可能です。
例えば、公募している求人を見ると
- 仕事内容:医薬品開発における病理研究担当
- 年収:500~800万円 ※経験により応相談
- 仕事内容:学術営業職
- 年収:500~650万円 ※経験により応相談
職種や経験にもよりますが、動物病院の勤務医や公務員と比較しても高い年収が期待できます。
勤続年数を重ねていけば1000万円以上の収入が期待できる職種もあります。
ただ、獣医師としての専門知識が活かせるかというと、職種によっては営業やマーケティング的な内容の仕事もあるので、「獣医師」という意識が強いとやりがいを感じることが難しい場合もあります。
あくまでも自分のライフキャリアで仕事がどういう位置づけにあるか、どういう考えでその職種に就くのか、ということをはっきりさせた上で転職することが重要です。
- 直接動物に関わっていた時のようなやりがいはなくなることを理解する(やりがいの形が変わる)
- 就く職業によっては、専門知識をそこまで活かせない場合もある
- 就く職業によっては数字などで成果を求められる傾向にある
仕事のキャリアだけではなく、人生を通してライフキャリアについて考えることはとても大切です。
次の記事ではライフキャリアについて詳しく解説しているので、ぜひ読んでみてください!
就職先⑤:動物園・水族館
就職先のつ5目は、動物園・水族館です。
動物園や水族館は欠員が出ないと募集されない、非常に狭き門です。
それでも動物園や水族館への就職を希望する人は、幼い頃からその職業に憧れをもって獣医学部へ進学した人も多く、動物病院や公務員など他の職種に一度就いてから欠員が出るのを待っている人もいます。
中には獣医師免許を持っているけれど、飼育員として働きながら空きが出るのを待つ人もいます。
私は学生時代サファリパークに実習に行ったことがありますが、
2人いた獣医師のうち1人は動物病院から転職された方でした。
動物園や水族館の獣医師は普段触れ合わないような動物と関わることができたり、施設自体が希少動物の保護や繁殖などの役割も担うため、種の保存や研究・調査の一翼を担っているという点ではとてもやりがいがある仕事だと思います。
ただ、給与面ではそれほど恵まれているわけではありません。
例えば、
- 給与:新卒 207,300円
- 採用人数:若干名
- 初任給:192,200円 ※経験その他に応じて加算
- 獣医師手当:20,000円
- 期末勤勉手当、時間外勤務手当、住居手当、通勤手当など
- 基本給:205,000円~ ※経験や年齢により決定
- 獣医師手当:30,000円
また、水族館や動物園には民間が運営しているものと公営のものがあり、自治体が運営している動物園や水族館に就職する場合は公務員試験を受けて合格する必要があります。
さらに、公務員試験に合格できたとしても必ず希望の部署に配属されるとは限らないので、異動を繰り返しながら気長に待つ必要が出てきます。
夢のある仕事ですが、ある自治体で動物園獣医師をしていた人から聞いた話では、予算が限られているので苦しいと言っていました^^;
まとめ
今回は、獣医師が次の就職先として選ぶ代表的な6つの職種の仕事内容や収入の目安について解説しました。
収入はあくまでも目安に過ぎませんが、労働環境、収入、やりがいのバランスを考え、ライフキャリアの実現に必要な転職かどうかしっかり考えてから行動に移すことが重要です。
また、どんな仕事にもやりがいと苦労する面は存在します。両方を理解し、自分にとって一番優先したいことはどんなことなのかを明確にした上で総合的に判断するようにしましょう。
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