「儲からないから獣医師にはならない方がいい」
「勤務医してたら食べていけない」
「獣医師はコスパが悪い」
そんなネット上の書き込みやうわさ話を見たり聞いたりした人も多いのではないでしょうか。
私自身も動物病院で勤務医をしていた時、特に新人の頃はそう感じていました。
しかし、転職を重ね複数の病院を経験すると、勤務医ながら高給取りの先生にも出会いましたし、友人からも高給を得ている勤務医の先生の話を聞いたりしました。
また、開業医として年収1億円を得ている獣医師も存在します。
それなのになぜ獣医師の年収は低い、獣医師は儲からないと言われるのでしょうか?
私は、それは元をたどれば獣医業界の構造に問題があるからだと思っています。
この記事では、獣医師の収入について知りたい人に向けて、次の3つについて解説します。
- 開業医と勤務医の年収
- 獣医師の年収が低い理由
- 獣医師の年収が低くなってしまう原因
勤務獣医師の年収がなぜ低いのか、開業するとどれくらいの収入が得られるのか知りたい人は、ぜひ参考にしてください!
- 動物病院と公務員で3回の転職を経験
- 動物病院勤務では、平均14時間におよぶ長時間労働やトップダウンの経営方針に悩む。
- 結婚を機に退職し、現在は獣医師のキャリア形成について発信。
- 2児の母。
実際に獣医師の年収は低いのか?
実際に獣医師の年収は低いのでしょうか?
私は、開業するのか、勤務医として働くのかが一つの分岐点になると考えています。
以下、それぞれについて解説します。
開業するとどのくらい儲かるのか?
結論としては、平均3000万円というのが通説になっています。
やっぱり年収1億なんて夢のまた夢だよなぁ・・・
確かに獣医師として年収億1円を得ることは簡単なことではありませんが、夢物語というわけでもありません。
次のグラフは、1動物病院あたりの年間総売り上げ額の分布を示したものです。(出典:大阪フレンドロータリークラブ活動報告より)
こちらは平成24年当時の報告であり、農林水産省の統計では令和5年12月時点で動物病院は約1.2倍に増え、個人病院と企業病院の割合も多少変わってきていますが、分布としては大きく変わらないのではないかと思います。
ボリュームゾーンは1000万~5000万円で、売り上げが1億円以上の動物病院は6.1%になります。
ただ、注意したい点は、売り上げ=収入ではないことです。
売り上げの約50%は仕入れ原価、医療維持費、光熱費に、約25%は人件費、そして残りの約25%が利益(=収入)になります。
そのため収入として1億円を得るためには、単純計算でおよそ4億円ほどの売り上げが必要です。
億単位の規模の売り上げをあげるためには、複数の動物病院を経営する必要があり、法人運営しているケースがほとんどなのではないかと思います。
年収1億円を得ている獣医師は、上記グラフの3億円以上の売り上げがある0.1%の中でもさらに限られた一握りの人ということになります。
勤務獣医師の年収は?
一方で、勤務獣医師の年収はどのくらいになるのか、令和4年の賃金構造基本統計調査を参考に、調査対象の企業の平均年収と獣医師の平均年収を比較してみます。
年齢 | きまって支給する 現金給与額 | 年間賞与その他特別 給与額 | 年収 | |
---|---|---|---|---|
産業計(非役職) | 25~29歳(27.5歳) | 284,800円 | 712,000円 | 4,129,600円 |
獣医師 | 25~29歳(27.8歳) | 322,100円 | 425,200円 | 4,289,200円 |
同じ25歳では、獣医師は新卒扱いになるのに対し、一般企業の場合勤続数年目となる違いはありますが、年収はほぼ同じという結果でした。
ただ補足するとすれば、上記の統計結果は企業規模が10人以上の場合の結果なので、民間企業で働く獣医師も含まれている可能性があり、純粋な臨床獣医師の年収ではないということです。
実際に複数の動物病院を経験した私の肌感覚としてはやや高く出ているなという印象です。
特別な場合を除いて、一時診療に従事する20代獣医師の年収は300~400万円といったところではないでしょうか。
獣医師の職種別の年収については以下の記事でも解説しているので
ぜひ参考にしてみてください!
動物病院勤務の獣医師の年収は、私の肌感覚だと実際の統計結果よりやや低いと思われますが、経験を積んで高度なスキルを身につけたり、フリーランスとして成功すれば高収入を得ることも夢ではありません。
令和4年の賃金構造基本統計調査から各年代別に年収をみてみると、勤務獣医師の年収のピークは700万~900万円。
動物病院の規模や資金力によって差がありますが、一例をあげると、ファニメディック動物病院ではグループ病院の院長に就任すると年収は1,000万円を超えます。
それなのに「獣医師は収入が低い」と断定されてしまう理由は、労働に見合った収入が得られないことが原因の一つだと私は考えています。
労働に見合う収入が得られない理由
獣医師は拘束時間が長く、命を扱うプレッシャーを抱えながら仕事をしています。
急患の対応や緊急手術などで休憩時間が削られたり、残業を余儀なくされることは日常茶飯事です。
さらに担当患者が予断を許さない状態であれば、休日出勤して対応にあたる先生も少なくありません(それも時間外勤務扱いにならないことも・・・)。
1日の勤務時間は13~15時間。そこまで働いていても年収が300~400万円程度なのは労働に見合う対価とは思えないですよね。
当時同僚の先輩と時給換算したら、時給600円代でした。
マックで働いてた方が儲かるね・・・という話をしました^^;
ではなぜ労働に見合うお給料がもらえないのでしょうか。
それには大きく分けて3つの理由があげられます。
理由①:自由診療のため
労働に見合う収入が得られない理由の1つ目は、自由診療のためです。
人の病院と違い、動物病院の診療は飼い主の選択の幅を広げるため、独占禁止法により自由診療と定められています。
そのため同じワクチンを打つ、血液検査をする、レントゲンを撮るという診療科目一つ一つの料金が病院によって違ってきます。
以下は平成25年~令和4年までの飼養動物診療施設の開設届出状況の推移と犬と猫の飼養頭数の推移を表したグラフです。(※動物病院の数は産業動物診療施設の数を除いた診療施設の数)
グラフから動物病院の数は増加傾向にある一方で、ペットの数は猫はほぼ横ばいながら犬の頭数は減少傾向にあることがわかります。
このことから動物病院の競争率が激化している状況がうかがえます。
病院スタッフのお給料を上げたくても、診療費が高いと他の病院へ患者さんが流れてしまう可能性があります。
闇雲に診療費を高くできないことが自由診療のデメリットの1つです。
質の高い治療を受けさせてあげたいと思う飼い主さんが大半だと思いますが、できることなら費用を抑えたいというのが本音ですよね。
理由②:獣医業界の構造
労働に見合う収入が得られない理由の2つ目は、獣医業界の構造です。
町医者に相当する一時診療の動物病院では、血液検査、レントゲン検査、エコー検査などをはじめ、中にはCTやMRI設備まで備えた病院が存在します。
設備があるということは、獣医師はそれを使いこなせるようにならないといけないということです。
人の病院では専門科が別れていて、レントゲンを撮る時はレントゲン技師が、血液検査、尿検査、エコー検査などは臨床検査技師が行うのが一般的です。
また、海外では分業化が進んでいるため、エコー検査が必要になったら院内でもエコーが得意な先生が担当したり、二次診療病院へ送るケースもよくあります。(参考:英国獣医 SAYO【UKペットライフ・獣医ライフ】)
日本の動物病院は獣医師一人一人のジェネラリストとしての技術が高い(高いことが要求される)ために、加重労働に陥りやすいしくみになってしまっているのです。
低価格で質の良いサービスを受けられるのは飼い主さんにとっては嬉しい反面、獣医師は少ないお給料で高いスキルを身につけなければならず、
とても厳しい労働環境におかれています。
さらに、この町医者としての技術レべレが高いことで専門医などのスペシャリストの活躍の場が限られてしまい、なかなか分業化が進まない現状があります。
理由③:設備投資にお金がかかるため
労働に見合う収入が得られない理由の2つ目は、設備投資にお金がかかるためです。
開業するには、もちろん多額の開業資金が必要になってきます。
- 診察台 20~30万円
- エックス線撮影装置 150~250万円
- 手術台 30~40万円
- 無影灯 50万円~
- 麻酔器 30万円前後
- カラーエコー 250万円~
- 麻酔モニター 250万円
- 生化学検査装置(ドライケム3500V) 180万円前後
- 自動血球計算装置 100万円~ (参考:あおぞら動物病院)
以上は、開業時にそろえる設備の一部ですが、上記したように海外の動物病院では分業化が進んでいるため、一次診療の病院では全ての設備を備えていないこともあります。
かかりつけの病院で治療が完結しないので、何か問題が起きた時には二次診療病院や大学病院まで行かなければならず、飼い主さんからすると大変にはなりますが、海外ではそれが「普通」ととらえられています。
費用を抑えて質の高いサービスを提供しようとする日本人の気質が、設備投資のハードルも上げているのではないかと感じています。
獣医師として働きながら年収を上げる方法は?
動物病院で働く勤務獣医師は、労働が収入に結びつきにくい状況ですが、収入を上げる方法はいくつかあります。
代表的な方法は、次の3つになります。
- 開業
- フリーランスへ転向
- 転職
この3つの方法のメリットとデメリットは次の記事でも解説しているので
ぜひ参考にしてください!
いずれの方法にしても、収入アップを目指すのであればスキルを磨くことは必須になります。
開業することはもちろんですが、フリーランスになるにも転職をするにもスキルがあった方が評価してもらいやすく、収入面でも優遇してもらえる可能性が高くなります。
転職に関しては、年齢とタイミングが合えば大手の製薬会社やCROの病理研究なども高収入を狙えます。
CRO:製薬会社から医薬品開発における臨床試験や製造販売後調査の業務を受託している企業のこと
獣医師は活躍の場が多岐にわたりますが、職種の違う業界の情報収集は
とても難しいと感じます。
その点で転職エージェントを利用することが効率よく転職をすすめるためにも、転職を成功させるためにもおススメです!
まとめ
今回は、獣医師が儲からないと言われる理由とその原因について考察を交えて解説しました。
自由診療のため費用が高額になるのは仕方ありませんが、それも海外では高い技術や知識にそれ相応の請求をすることは当たり前という考え方が根底にあります。
様々な点で、日本人の考え方が獣医師の年収の低さに関係しているとも言えそうですね。
今回の記事が動物病院で働く人、または動物病院で働こうと考えている人の参考になれば幸いです。
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