フリーランスで働く獣医師もいるみたいだけど、
需要とか年収ってどうなんだろう?
働き方改革や働く人のニーズの多様化により、フリーランスで働く人は増加傾向にあります。
2018年1月、厚生労働省による「モデル就業規則」が副業・兼業が可能となる内容に改訂されたことをきっかけに副業を解禁する企業が増え、副業としてフリーランスで活躍する人が増えました。
獣医師でも、自分の専門分野を生かしてフリーランスとして働く人、補充要員として働く人、研究や動物愛護活動の傍ら臨床獣医師として働く人など形態は様々です。
動物病院勤務は激務なため自由な働き方に憧れる人も少なくないと思いますが、自由と引き換えにフリーランスは責任や自己管理能力が求められます。
この記事では、フリーランスという働き方を検討している人に向けて、次の3つを解説します。
- フリーランスで働く獣医師の年収の具体例
- フリーランスで働くことのメリット・デメリット
- フリーランスになって後悔しないためのポイント
この記事を読むと、フリーランスで働くことのメリット・デメリット、フリーランスの収入がどれくらいになるのか目安がわかります。
フリーランスという働き方に興味のある人は、ぜひ参考にしてください ^^
- 動物病院と公務員で3回の転職を経験
- 動物病院勤務では、平均14時間におよぶ長時間労働やトップダウンの経営方針に悩む。
- 結婚を機に退職し、現在は獣医師のキャリア形成について発信。
- 2児の母。
フリーランスと個人事業主ってどう違うの?
フリーランスは個人で仕事を請け負う「働き方」のことで、個人事業主は個人で何らかの事業を行う人の「税務区分」を指します。
厚生労働省の「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」では、フリーランスを次のように定義しています。
実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、 自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者
つまり、フリーランスは働き方を表す枠のことで、個人も法人も個人事業主も含まれます。
どうせ仕事を任せるなら、フリーランスじゃなくて勤務医を雇う方が
契約は1回だけだし楽なんじゃない?
しかし、勤務医を雇用するコストを考えると、次のような場合には状況に応じたフリーランスの利用が適しています。
- 学会参加や旅行のため、単発で代診して欲しい
- 産休・育休のスタッフの代替要員
- 専門的な治療が必要な患者さんを診て欲しい
- 次のスタッフが補充されるまでの代替要員
2018年の農林水産省の調査によると、動物病院の約64%は獣医師が院長一人のみという状況です。
普段は自分一人でも問題ないけれど、学会や勉強会への参加、あるいは家族で旅行に出かけたいとなった時に、休診ではなく代診を置いてでも病院を空けていた方が結果的に良いと判断する院長もいます。
また、高度な診断や処置が必要になった時、必要に応じて専門知識を持ったフリーランス獣医師に入ってもらうことで、遠方の二次診療病院に患者さんを送り込まずに済むため、患者さんの負担軽減につながる場合もあります。
昨今、都心部の動物病院は飽和状態とも言われていますが、開業するリスクを取るより、フリーランスという選択をする人も増えています。
フリーランスで働くメリット
獣医師に限らず、近年フリーランスという働き方を選ぶ人が増えています。
フリーランスになることでどんなメリットが得られるのか、ここではフリーランスで働くことの主なメリットについて次の4つについて解説します。
メリット①:働く時間や場所の自由度が高い
メリットの1つ目は、働く時間や場所の自由度が高いことです。
会社員は働く場所や時間が決められていることが多いですが、フリーランスは組織に属さないため、働く場所や時間を自分で自由に決めることができます。
家事・育児との両立、親の介護問題、パートナーの転勤などで離職せざるを得ない状況でも、場所や時間に縛られないフリーランスという働き方であれば、ライフステージの変化にも柔軟に対応することができます。
需要があれば、自分の都合のよい時間帯を提示して患者さんに来院してもらったり、今やオンライン上で完結できる学術記事の執筆やペットのしつけ相談などは時間も場所も選びません。
ただし、自由度が高い分、収入は成果に依存します。
フリーランスである程度の収入を得るためには徹底した自己管理と経営者としてのマインド、セルフブランディングが必要です。
経営者として必要なマインドは転職を成功させるためのマインドと多くの共通点がみられます。
次の記事では、転職を成功させるためのマインドセットについて解説しているので、ぜひ読んでみてください!
メリット②:自分のスキルや強みを生かせる
メリットの2つ目は、自分のスキルや強みを生かせることです。
組織に属していると、やりたくないことや苦手なことでも、割り振られた仕事はやらなければなりません。
一方、フリーランスであれば自分で仕事内容を選ぶことが可能です。
依頼を受けるごとに契約を結んで業務に当たるので、その都度報酬や条件の交渉をすることもでき、納得できない場合やスキルアップにつながらないような仕事は断ることもできます。
自分の得意分野に特化した仕事をこなすことで、よりスキルを磨くことができ、キャリア形成しやすいこともメリットとしてあげられます。
逆に、スキルを磨き、強みをアピールすることで、その分野のアイコン的存在になれるよう、セルフブランディングをすることも重要です。
メリット③:パフォーマンス次第で高収入を得られる
メリットの3つ目は、パフォーマンス次第で高収入を得られることです。
動物病院や会社など組織に属している場合、お給料は年俸や月給制で、昇給率は勤続年数によって決まっていることが多いと思います。
そのため、いくら組織に貢献しても、逆に組織の足を引っ張っても、それが給与に直接反映されることはあまりありません。
その点、フリーランスはパフォーマンスの報酬を自分で決めることができます。
そのため、需要に対し、それに見合ったスキルを提供することで高収入を得ることが可能です。
実際、フリーランス白書2023によると、過去に一つの会社に所属していた経験のあるフリーランスの約半数が、収入が増えたと回答しています。
フリーランスで働く獣医師が増えてきている背景として、動物病院の過酷な勤務状況やパフォーマンスに対する金銭的な見返りが少ないことがあげられます。
次の記事では、獣医師の年収が低いと言われる理由について解説しているので、ぜひ合わせて読んでみてください!
メリット➃:人間関係のストレスが減る
メリットの4つ目は、人間関係のストレスが減ることです。
組織に属して働いていると、職場に苦手な人がいても避けることはできません。
フリーランスは一人で全てこなさなければならない反面、上司や先輩から必要以上に叱責や嫌味を言われたり、仕事を押しつけられることがありません。
営業活動や診察を行う際は患者さんとのやり取りはありますが、自分で仕事内容や付き合う相手を選ぶ自由度が高くなるので、人間関係のストレスは確実に少なくなります。
上司や先輩にあたる人がいないため、ハラスメント自体がありません ^^
フリーランスで働くデメリット
フリーランスの自由で柔軟な働き方に魅力を感じる人も少なくないと思いますが、デメリットも存在します。
ここでは、フリーランスで働くことの主なデメリットについて、次の5つについて解説します。
デメリット①:収入が不安定
デメリットの1つ目は、収入が不安定なことです。
固定給が支給される会社員に対して、フリーランスは契約ごとに報酬が支払われるという仕組みのため、一定の収入が得られる保証はありません。
フリーランス獣医師が安定した収入を得るためには、病院との信頼関係の構築と、継続して依頼してもらえるような病院を複数持っておくことが重要です。
病院によっては来院数の増加により、新たに勤務獣医師を雇うことでフリーランス獣医師の需要がなくなったり、逆に、経営状況が悪化して閉院することも考えられます。
そのため動物病院の仕事だけではなく、収入源を分散しておくことが重要です。
いきなりフリーランスになるよりは、副業を通じてスキルや顧客ベースを獲得してから転向する人が多いようです。
次の記事では、勤務獣医師をしながら並行してできる副業について紹介しているので、参考にしてみてください。
デメリット②:社会的信用が低くなる
デメリットの2つ目は、社会的信用が低くなることです。
フリーランスになると、会社員より社会的な信用度が低くなるため、あらかじめ以下の点に留意しておく必要があります。
- クレジットカードの審査が通りにくい
- ローンが組めない
- 賃貸で部屋を借りるのが難しくなる
もちろん全く不可能なわけではありません。
配偶者が安定した企業の会社員であったり、確定申告の写しなどで毎年利益が継続して出ていることを示すことでクリアできるケースもあります。
ただ、それでも厳しい場合もあるので、予定があるのであればフリーランスに転向する前に引っ越しやクレジットカードの作成は済ませておくことが無難です。
決まった収入を得られる保証がないので仕方ないですね。
法人化すると社会的信用が高まりますが、ある程度の利益が出ていないと法人になるコストの方が高くついてしまいます。
デメリット③:事務手続きを全て自分でやらなければならない
デメリットの3つ目は、事務手続きを全て自分でやらなければならないことです。
確定申告や保険の手続きなど、会社員の時は会社が全てやってくれていた作業を全て自分でやらなければなりません。
仕事の契約時に使用する、契約書や請求書も自分で全て用意する必要があります。
また、支出は個人のものと仕事関係のものに分けて経費計上しなければいけないので、自宅で仕事をする場合は家賃や公共料金の計算は想像以上に複雑になります。
そのため、有料の経理ソフトを使って作業を効率化したり、資金に余裕が出てきたら人を雇ったり、税理士などの専門化に任せることも選択肢の一つです。
デメリット➃:全て一人で決めなければならず孤独
デメリットの4つ目は、全て一人で決めなければならず孤独なことです。
動物病院であれば、わからないことがあれば先輩や院長に相談することができます。
フリーランスでも、依頼先の病院のやり方を踏襲するために、病院の治療方針などはカルテを参考にしたり、院長にあらかじめ確認することはありますが、基本的にその診察における全責任はフリーランスが負うことになります。
そのため、勤務医のように診療にあたりながらも「学ばせてもらう」という立場とは一線を画します。
また、自分のスキルだけではなく、どのように事業を拡大していくのか、需要がない時期にどうやって収入を安定させるのか、依頼先をどう増やしていくのかなど、全て自分一人で考え決めなければなりません。
社長業は孤独だと耳にしますが、フリーランスも同様に、全て自分で判断し、その全ての責任を負う覚悟が必要です。
対処法の一つとしては、フリーランスが集まるコミュニティに参加することで、仲間作りや悩み相談の機会が得られる可能性があります。
こういったコミュニティに参加することで、情報収集や顧客の新規開拓につながることもあるので、利用するのも一つの選択肢です。
デメリット⓹:社会保障が手薄になる
デメリットの5つ目は、社会保障が手薄になることです。
会社員であれば厚生年金に加入していたところを、フリーランスになると国民年金に切り替わります。
また、会社が半額支払ってくれていた社会保険料を全額支払わなければならず、さらに国民年金へ切り替わったことで将来の年金受給額は低くなってしまいます。
また、国民健康保険加入のフリーランスは傷病手当金や出産手当金が出ず、雇用保険にも加入することができないため、会社員と比べて保障が手薄になります。
そのため、小規模企業共済制度やiDeCoを利用するなど、自分で資産を増やす努力が必要です。
フリーランスは、労働基準法に適用される「労働者」に該当しないため、雇用保険などの労働保険に加入することができません。
フリーランスになったら収入はどうなる?
フリーランスは、月当たりどれくらい仕事をするのか、依頼された仕事を引き受けるのか断るのか、請負先をどう増やしていくのかなど全て自分次第です。
そのため人によって収入には大きなばらつきがあり、月ごとの収入も一定ではありません。
そんな中で、ここではあくまでも目安として、フリーランスになった場合の具体的な収入分布をご紹介したいと思います。
200~600万円未満が約半数を占めている状況です。
さらに年収の具体例として、一般社団法人 獣医フリーランス協会 で代表理事をされている森田先生が、フリーランスに転向してからの収入の推移を公開しているので参考にしてみてください。
森田先生は臨床3年目にフリーランスに転向したということなので、単純に見れば年齢に対しての収入は一般的な勤務医よりも高いと言えます。
しかし、上記したようにフリーランスは社会保障が会社員に比べて手薄なため、その分資産構築の費用にあてなければなりません。
森田先生ご自身も、民間の保険や資産運用を組み合わせて、少なくとも月に10万円以上は将来対策費を備えなければいけないと仰っています。
フリーランスになって後悔しないためのポイント
フリーランスの道を選んだにも関わらず、フリーランスになったことを後悔したり、会社員や勤務医に戻ってしまう人も一定数存在します。
ここでは、フリーランスになって後悔しないためのポイントを解説します。
POINT①:フリーランスに向いているか自己分析をする
フリーランスという働き方には向き不向きがあります。
フリーランスになるためのハードルは高くはありませんが、その働き方で継続的に利益を出し続けるためには徹底した自己管理と経営者としてのマインドが必要になってきます。
フリーランスになるために必要な準備には次のようなことがありますが、先のことを見据えて計画的に行う能力も必要です。
- 健康保険と年金の切り替え手続きをする
- 開業届を税務署に提出する
- 契約書や請求書など必要書類の準備
- 独立資金を貯める
- 仕事先を獲得しておく
また、勤務時間が自由だからと不規則な生活を送っていると、自分のやるべきことを見失ったり、体調不良を招くことにつながります。
遅刻などは論外ですが、体調不良により仕事に穴を開けてしまったり、任されている業務を果たせないと、相手の信頼を失ってしまいます。
また、経費や売り上げを細目に把握したり、請負先の開拓など、獣医師としてのスキル以外の業務についても計画的に進めていく経営者としての目線も忘れてはいけない点です。
そのため、レスポンスが遅い、金銭管理や時間にルーズ、営業活動が苦手な人はフリーランスという働き方に向かない可能性が高いです。
営業活動に苦手意識のある人は、SNSやクラウドソーシング、エージェントサービスを利用する方法もあるので、自分に合った方法を探してみてください!
また、次の記事では自己分析をするメリットやポイントについて解説しているので、ぜひあわせて読んでみてください。
POINT②:事前の貯蓄と収入源の分散
あらかじめ仕事先を獲得していたとしても、突然契約を打ち切られる可能性や当初考えていた営業活動が上手くいかない場合も考えられます。
そのため、独立資金としてある程度の額の貯蓄をしておくことが大事です。
金額としては、収入がなくても1年間生活できるくらいの生活費が目安です。
一般的に、事業が軌道に乗るまで1年くらいはかかります。
また、上記したように継続して仕事がもらえる保証がないため、突然契約が打ち切られた時の対策として、収入源を分散しておくことがとても重要です。
継続して依頼してもらえる病院を複数持つこと以外にも、自分の得意分野以外の仕事や、例えば臨床以外の仕事も手広くすることで業界のトレンドに流されるリスクを減らすことができます。
POINT③:事前に自分の市場価値を把握する
フリーランスとして独立する前に、自分の市場価値を把握しておくことはとても重要です。
自分のスキルに自信があっても、働こうと考えている地域で需要があまりなかったり、すでに同じようなスキルで働いているフリーランスがいると、価格競争になってしまうことも考えられます。
価格を低く設定し過ぎると、いくら働いても利益が出ないという状態になり、フリーランスの大きなメリットである自由と柔軟な働き方ができなくなってしまいます。。。
自分の市場価値を知るには、主に次のような方法があげられます。
- 市場調査を行う: 同じ分野で価値提供している人や病院と比較することで自分の市場価値を推定したり、同業者や同じ業界の関係者に自分のスキルを客観的に判断してもらうなどの方法があります。
- 評価やレビューの分析: 副業から始めて、クライアントからフィードバックをもらうことも有効です。 過去の仕事に対する評価やレビューを分析し、顧客満足度を把握することが自分の市場価値を知る手がかりになります。
- 専門家に意見をもらう: あなたの市場価値は採用側のニーズによって変動します。 採用側のニーズを汲み取る機会としては転職活動が最も身近です。そして、採用側のニーズを熟知している転職エージェントは求職者の市場価値を客観的に判断することに長けています。 実際に転職するつもりがなくても、自分の市場価値を知る目的で利用してみるのも選択肢の一つです。
なお、次の記事では、私が実際に転職エージェントを利用した時の体験談を書いているので、ぜひ参考にしてみてください。
POINT➃:事業計画を立てる
事業計画書とは、事業目標を実現するために必要な手段や戦略を記したものです。
事業計画を立てることは必須ではありありませんが、事業の経営状況を客観視でき、今後の見通しや取り組むべきことが明確になるというメリットがあります。
例えば、次のようなことを分析することで、取るべき戦略や手段が明確になります。
- 自分のスキルにどのくらいの価値があるのか
- どこで、どの時期に、どのくらい需要があるのか
- 毎月どのくらいの収入を見込むのか
- 請負先はどのように広げていくのか
事業計画書は銀行や投資家に事業を理解してもらい、出資を募って協力してもらう目的で作成されることが多いですが、私は自分の事業の経営状態を把握し、成長につなげるためにとても重要なものだと思っています。
事業を始める上で、なぜそれを始めるのかという信念はとても重要です。
POINT⓹:社会的信用低下への備えをする
フリーランスという働き方を選ぶと決めたら、社会的信用が低くなることに対する覚悟が必要です。
フリーランスは自由と親和性が高い分、どうしても安定感に欠けます。
上記したように、クレジットカードやローンの審査が通りにくくなったり、賃貸で部屋を借りることが難しくなるので、予定している場合は事前に済ませる必要があります。
また、フリーランスは仕事内容も働き方も人それぞれなので、外から見ると何をしているのか実態がわかりにくく、理解されにくい面があります。
そのため、会社員よりも楽をしていると思われることも多く、社会的地位の低さからフリーランスになったことを後悔してしまうケースもあります。
そのためにも、結果を出す(利益を出し続ける)ことと、他者の価値観に左右されない強固な軸を持つことが重要です。
まとめ
今回は、獣医師でも増えてきているフリーランスの働き方について、フリーランスで働くことのメリット・デメリット、フリーランスになって後悔しないためのポイントについて解説しました。
どんな働き方にもメリットだけではなくデメリットが存在します。
重要なことは、自分がどんな働き方に向いているのかという自己分析をしっかりとすることです。
働き方が多様化している現代において、フリーランスという形態を選ぶ人も増えてきていますが、メリットだけではなくデメリットについても理解した上で、事業としてどのように展開していくのかという戦略が必要です。
フリーランスという働き方に興味のある人は、ぜひこの記事を参考にキャリア形成について考えてみてください。
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