動物病院勤務は、過酷な労働環境から高確率でブラックになってしまいます。
厚労省の調査では、大学新卒者の離職率は1年目が10~15%程度であるのに対して、動物病院に就職した獣医師の1年目離職率は6割を超えるとも言われています。(参考:新規学校卒業就職者の在職期間別離職状況)
また、女性獣医師は40歳までに80%の人が臨床現場を離れるというデータもあり、結婚や出産などのライフイベントを経験する女性にとっては、働きやすい環境とは言えません。
この記事では、過酷な動物病院勤務に悩む獣医師に向けて、以下の3つについて解説します。
この記事を読むと、ブラックな動物病院の特徴や見分けるポイントがわかり、ブラックな病院を選ぶ確率が下がります。
職場環境に悩んでいる獣医師は、ぜひ参考にしてください!
- 動物病院と公務員で3回の転職を経験
- 動物病院勤務では、平均14時間におよぶ長時間労働やトップダウンの経営方針に悩む。
- 結婚を機に退職し、現在は獣医師のキャリア形成について発信。
- 2児の母。
動物病院勤務がブラックになってしまう3つの理由
厚生労働省では「ブラック企業」について定義はしていませんが、一般的な特徴として以下を挙げています。
- 労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す。
- 賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど、企業全体のコンプライアンス意識が低い。
- このような状況下で労働者に対し、過度の選別を行う。
私も、
・1日平均13~14時間の長時間労働
・残業代が支給されない
・社会保険などの福利厚生がない
・休日出勤しても補填なし
・経営スタイルが院長のトップダウン
という環境で働いた経験があります。
(どう考えてもブラックそのもの…)
ここでは、動物病院がブラックになってしまう理由について解説します。
理由①:長時間労働
動物病院が長時間労働になってしまう主な原因として、以下の4つがあげられます。
- イレギュラーな事象が起こりやすい 動物病院は患者の急変、緊急オペなど、イレギュラーな事象が起こりやすい職場環境です。 動物の命を扱う職業特性から、緊急で対応する必要に迫られることが多く、長時間労働につながる要因となっています。
- 人材不足 多くの動物病院が、資金力がなく人材を増やせない、募集をしても人が集まらないといった理由から人材不足に陥っています。 人材不足から長時間労働になり、長時間労働のため離職する人が増え人材不足になるという悪循環が生まれる傾向にあります。
- 給与水準が低い 勤務時間に対して給与水準が低いことが離職の一因となっています。 離職者が出ることで、一人当たりの業務量が増え、長時間労働に陥ってしまいます。そのため、給与水準が低いことも、離職や長時間労働の負の連鎖を引き起こしていると言えます。
- 動物病院が増えたため 近年のペットの数の増加率に対して、動物医療従事者の数が十分でないため、動物病院の数の増加により、人材が分散されて人手不足の一因となっていると考えられます。
人材を増やせない理由や給与水準が低い理由については、次の記事で解説しているので、ぜひ合わせて読んでみてください!
理由②:やりがい搾取の思考
動物病院で働く獣医師は、経験やスキルを身につけようと、向上心をもって仕事に臨んでいる人たちばかりです。
「スキル」や「経験」を身につけるためであれば、残業代が出なくても治療にあたり、必要であれば休日出勤も惜しみません。
そのため、「勉強させてもらっている」という感覚を押しつけられることもあります。
「せっかくの機会だから~」「勉強になるから~」と言われると
向上心を刺激されますよね ^^;
確かに、多くの症例を経験すれば知識も経験値も上がり、獣医師としてスキルアップできることは間違いありません。
ただ、それが働いた分の補填をしなくてもいい理由にはなりません。
病院経営に獣医師の「やりがい」を利用してしまうのは、私は院長(経営者)に問題意識が欠如していることが原因なのではないかと感じています。
理由③:院長に経営者のマインドがない
動物病院、特に個人病院の院長は、そのほとんどが獣医師です。
獣医師は大学で6年間獣医学を学び、就職してからも知識やスキルを磨くことはあっても、経営について学ぶ機会はありません。
つまり、自分で意識的に勉強しないと、経営者としての意識や知識を持たないまま病院を経営することになってしまいます。
経営とは資金繰りのことだけを指すのではありません。
経営者には知識だけではなく、数字(売り上げ)や、経営資源の一つである「人」を管理する、管理能力や組織力が必要です。
一般的に、動物病院で働く勤務獣医師は、3~5年で辞めてしまう傾向があります。
3~5年働くと最低限の診察をこなすスキルが身につくので、もっと多くの症例が集まる病院へ転職したり、開業を目指す人もいます。
そのため、「どうせ数年で辞めてしまうから」と考えてしまう院長も少なくないようです。
辞めたらまた新しい人を雇えばいいという安直な考えは、経営者として致命的です。
働きやすく魅力がある病院であれば人は残るし、魅力がない病院には募集をかけても人は集まりません。
人手不足、長時間労働、サービス残業・・・そういった課題に対して院長(経営者)が問題意識をもっていないとしたら、経営者としてのマインドが足りないと言わざるを得ません。
ブラックな動物病院を見分けるポイント
ここでは、ブラックな病院を見分けるポイントとして、重要だと感じる以下の6つについて解説します。
- スタッフの勤続年数 労働環境や人間関係に問題がある病院は、スタッフの勤続年数が短い傾向にあります。 ただ、注意点としては、勤続年数が長いスタッフがいても、その人が原因で他のスタッフが辞めてしまっている可能性があるので、実習などで情報収集をし、総合的に判断することが重要です。
- 有休消化率 有給休暇の付与は法律で決まっていますが、同調圧力や数カ月前に申請が必要などの理由から、有休が形骸化しているケースがよく見られます。 実際にスタッフが取得した有休をどれくらい消化できているのかを確認しましょう。
- 教育体制 動物病院の繁忙期は4~6月です。教育体制が整備されていないと、その病院のやり方がわからない状態で戦力になることを期待され、様々なジレンマを抱えることになってしまいます。 また、教育体制が整備されていないと、入職後のキャリアプランの見通しが立ちにくいというデメリットもあります。
- 契約が明文化されているか 雇用契約を結ぶことで、被雇用者(獣医師)は労働基準法や労働契約法に守られる形になります。 院長(経営者)に経営や法律の知識がないと、口約束で働き始めてトラブルに発展したり、泣き寝入りすることになるケースもあるので、雇用契約書や労働条件通知書を発行してもらえるか確認するようにしましょう。
- 経営者が現場の状況を管理できているか 獣医師が複数いる病院では、診療を勤務獣医師に任せ、院長が病院にほとんど顔を出さないケースがあります。 院長(経営者)が現場の状況を把握できていないと問題意識が生まれず、環境が悪化しても改善されない可能性が高くなります。
- シフト管理 シフト管理がずさんだったり、急な変更が頻繁に起きていないかを確認することも有効です。実際にシフトを見ることが出来る場合は、長時間労働の有無や休憩時間の取得状況なども確認するようにしましょう。
一部の転職サイトでは、有休消化率や教育体制などについて記載されていることもありますが、上記の項目については、実際に実習に行って確認することが重要です。
情報収集でおさえておきたいポイントは、表面化していない情報をどれだけ集められるかです。
募集要項には都合の悪い情報は記載されないので、実習を通してリアルな情報を収集することが必要不可欠です。
実習に行くことで、院内の人間関係や雰囲気、スタッフの本音など、リアリティのある情報を得ることができるため、実習で得られる情報の貴重性はとても高いです。
次の記事では、転職前にやっておくべきことについて解説しています。 転職に失敗したくない人は、ぜひ参考にしてください!
ブラックな動物病院ばかり選んでしまう理由
ここまで、動物病院勤務がブラックになってしまう理由と、ブラックな動物病院を見分けるポイントについて解説してきましたが、それだけではブラック病院を避けることはできません。
中には、私のように何度もブラックな動物病院に就職してしまう人もいると思います ^^;
ブラックな動物病院ばかり選んでしまう理由として、以下の3つがあげられます。
ブラックな動物病院を選んでしまう理由
- 目標設定ができていない
- 情報収集不足
- マインドセットができていない
理由①:目標設定ができていない
獣医師としての目標設定ができていないと、職場環境をブラックだと感じてしまう可能性が高くなります。
動物病院はイレギュラーな事象が起こりやすく、命を扱う職業特性から緊急な対応が求められるため、激務になりやすい環境です。
条件の良い求人であったとしても、個人の要求を完全に満たす職場はありません。
獣医師としての目標設定ができていないと、乗り越えるべき課題に対して不満を感じやすくなってしまいます。
なぜ今の環境を選んだのか、獣医師としてどんなことを成し遂げたいのかについて、一度考えてみしましょう。
「何のために働くのか」という、働く目的について自分なりの考えを持っておくことは大切です。
理由②:情報収集不足
就職や転職をする上で、情報収集は必要不可欠です。
基本的に、HPや募集要項には都合の悪い情報は記載されないため、表面化していない、リアリティのある情報をどうれだけ収集できるかがブラック病院を避けるポイントになります。
実習に行くのが一番なんだろうけど、時間的にいくつも行くのは難しいな
効率の良い情報収集のやり方は、転職エージェントを利用しながら並行して、自分自身でも情報収集をするやり方です。
転職エージェントには、病院とのネットワークや多くの転職者のサポート実績があり、エージェントに登録することでそれぞれの病院の特徴や雰囲気について情報を得ることができます。
そもそも、転職エージェントに登録している病院がブラックな確率はかなり低いです。
次の記事では、転職エージェントを利用するメリットや利用する時の注意点について解説しているので、ぜひ合わせて読んでみてください!
理由③:マインドセットができていない
上記の2つをクリアしていても、ブラックな病院を選んでしまう場合は、マインドセットができていないことが原因の可能性があります。
良い職場に出会うためには、以下の6つのマインドセットがとても重要です。
- 主体性 誰かの指示を待つのではなく、自ら考え行動する。
- 自責思考 例え困難な状況に直面しても、全ては自分の選択の結果だと考える。
- プラス思考 困難な状況に直面したり失敗をしても、物事を前向きにとらえる。
- 逆算思考 目標や望む結果から逆算して、今やるべきことを導き出す。
- 視野を広げる 客観的な状況判断により、問題解決や柔軟な対応をする。
- 感謝の気持ちをもつ
上記のようなマインドセットができていない状態は、不満をすくい上げてしまいやすく、少しでも気に入らないことが起こると、働きにくい病院(=ブラック病院)だと感じてしまいます。
動物病院の労働環境があまりにもブラックなため、働く側の権利ばかり求めてしまいがちですが、働く側の人間がどういうマインドでいるかということはとても重要です。
次の2つの記事では、上記のマインドセットについて詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください!
まとめ
今回は、動物病院がブラックになってしまう理由やブラックな動物病院を見分けるポイント、ブラックな動物病院ばかり選んでしまう理由ついて解説しました。
ブラックな動物病院の特徴をおさえつつ、目標設定や入念な情報収集、マインドセットをすることで良い職場に出会う確立を高めることができます。
転職に失敗したくない、ブラックな病院を避けたいと思っている獣医師は、今回の記事をぜひ参考にしてください。
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