臨床から公務員へ転職した場合の年収の変化が知りたいな
公務員になっても獣医師の資格が生かせるのか知りたい
転職を検討している獣医師の中には、転職先の候補に公務員を入れている人もいるのではないでしょうか。
公務員獣医師の仕事や働き方は、動物病院で勤務する獣医師とは大きく異なります。
そのため、あらかじめメリットだけではなくデメリットや、獣医師としての役割の違いについて理解しておくことが、ミスマッチを防ぐためには大切です。
この記事では、以下の5つについて解説します。
この記事を読むと、公務員獣医師の年収の目安や公務員のメリット・デメリット、転職で後悔しないために必要なことがわかります。
公務員への転職を考えている人は、ぜひ参考にしてください!
- 動物病院と公務員で3回の転職を経験
- 動物病院勤務では、平均14時間におよぶ長時間労働やトップダウンの経営方針に悩む。
- 結婚を機に退職し、現在は獣医師のキャリア形成について発信。
- 2児の母。
公務員獣医師の役割とは?
動物病院で働く獣医師の役割は、診療をとおして動物の健康や福祉に直接貢献することです。
一方、公務員獣医師の役割は、動物の健康と福祉をとおして人間の生活環境の向上や食品安全に貢献することです。
しかし、動物病院で勤務する獣医師は、ペットの診療をとおして飼い主さんを幸せにしたり、地域社会へも間接的に貢献しています。
ペットの飼い方の指導や感染症の予防、寄生虫の駆除などは、地域の動物福祉や公衆衛生に関係しますよね。
また、公務員獣医師の仕事である動物愛護業務は、動物を治療や新しい飼い主を探すなど、直接動物福祉にかかわる仕事ですが、捨て猫・捨て犬の増加が人の生活に大きく影響することを考えると、人のための仕事と言えます。
【役割】
診療をとおして、動物の健康や福祉に直接貢献すること
【仕事内容】
・ペットの診療
・飼い主への啓発活動 (しつけ、健康管理など)
・予防医療の実施
・地域活動への参加
・動物愛護団体との連携など
【役割】
動物の健康と福祉をとおして、人間の生活環境の向上や食品安全に貢献すること
【仕事内容】(※地方公務員の場合)
・食品衛生監視業務
・環境衛生監視業務
・家畜衛生管理業務
・動物愛護管理業務 など
動物病院で働く獣医師も公務員獣医師も、動物と人に貢献する職業ですが、動物病院での仕事は動物への比重が、公務員の仕事は人への比重が大きいということを理解しておく必要があります。
臨床獣医師と公務員獣医師の目的や役割の違いを理解しておかないと、転職でミスマッチを起こしてしまうので要注意です!
次の記事では、地方公務員の具体的な仕事内容や私の公務員時代の体験談を詳しく解説しています。
公務員獣医師の仕事内容に興味がある人や、公務員の仕事の楽しさや大変さについて知りたい人は、ぜひ参考にしてください。
公務員獣医師の年収
公務員の給与は、行政職俸給表によって定められています。
棒給表にある金額は会社員の基本給と同じで、棒給表の金額に手当を加えたものが給与になります。
つまり、公務員の給与体系を表にしたものです。
ここでは、国家公務員と地方公務員の年収について解説します。
国家公務員
国家公務員の年収は、人事院の「令和5年国家公務員給与等実態調査報告書」に基づき算出しました。
賞与については、令和5年度の人事院勧告で、民間支給額に見合うよう4.40カ月から4.50カ月に引き上げられ、年間で140万円支給されます。
平均年齢(才) | 年収(円) | 平均給与月額(円) | 棒給(円) | 賞与(円) |
---|---|---|---|---|
46.5 | 5,705,911 | 357,899 | 313,583 | 1,411,123 (小数点以下切り捨て) |
これは、国家公務員全体の平均であり、役職や仕事内容によって手当などが大きく変わるので、あくまでも目安になります。
個人的には、国家公務員は業務が忙しく残業が多いイメージです。
残業手当なども含めると、さらに給与額は高くなると思います。
地方公務員
続いて、地方公務員として働く獣医師の平均年収です(令和5年度地方公務員給与実態調査より)
平均年収(円) | 給与合計額 (※給料月額+諸手当) | 平均基本給月額 | 給料月額 | 諸手当 | 賞与 (※期末手当+勤勉手当) |
---|---|---|---|---|---|
6,063,251 | 383,442 | 332,042 | 309,445 | 73,997 | 1,461,947 |
また、この調査概要の第3表-1では、獣医師が該当する「薬剤師・医療技術職」の平均年齢は41.3歳となっています。
国家公務員より地方公務員の方が年収が高いってこと?
地方公務員の場合、自治体ごとに支給される手当の内容で収入が大きく変わってきます。
例えば、地方では寒冷地手当、都市部の自治体では地域手当が他の自治体より多く支給されます。
また、国家公務員も働く場所で地域手当がついたり、役職がつくと役職手当がつくため、数字は参考程度にとどめてください。
獣医師の他の職種の年収については、次の記事にまとめているので、ぜひ参考にしてください。
公務員獣医師のメリット・デメリット
ここでは、公務員獣医師のメリットとデメリットについて解説します。
公務員は福利厚生が充実し、安定しているイメージが強いですが、デメリットについても理解しておくことでミスマッチを防ぐことができます。
公務員の主なメリットとしては、次の4つがあげられます。
- 収入や雇用が安定している 公務員のお給料は、税金や国からの補助金がもとになっています。そのため、景気に関わらず安定しています。 また、公務員の雇用は法律で保護されているため、解雇のリスクはかなり低いです。
- 福利厚生が充実している 法律にもとづいて社会保険が整備されています。 育児休暇や介護休暇だけではなく、共済組合に加入しているため健康保険の自己負担額が少なくて済みます。 年金も共済組合からの給付が追加で受けられるため、民間の年金制度よりも手厚いことが多いです。
- ワークライフバランスが取りやすい 公務員の労働時間は法律で制限されているため、残業や休日出勤が適切に管理されています。
- さまざまな分野の仕事を経験できる 公務員獣医師の仕事は、食品衛生や環境衛生、家畜管理衛生、動物愛護などさまざまです。 獣医師の資格ひとつでさまざまな分野の仕事を経験でき、そのための研修制度も整っています。 (しかも研修時間は勤務扱いとなります ^^)
共済組合とは、公務員と私立学校教職員を対象とした社会保険組合で、対象者とその家族の福利厚生をサポートしています。
共済組合に入ることで、保険料や年金だけではなく、利率が高く控除が受けられる共済貯金や低金利の共済貸付があったり、組合が運営する施設を安く利用できるなどメリットがたくさんあります!
一方、主なデメリットとしては、次の4つがあげられます。
- 昇給のペースが限られている 自治体によって差がありますが、民間企業と比べてお給料は低いことが多いです。 また、昇給の基本は年齢や一定の基準にもとづくため、仕事の成果に応じた昇給は期待しにくいです。
- 異動や転勤の可能性がある 公務員獣医師はさまざまな仕事を経験できますが、そのため異動や転勤は避けられません。 また、苦手な仕事もしなければならなかったり、場合によっては、引っ越しなどで生活環境を変えなければならないこともあります。
- 公務員としての制約がある 公務員は副業が禁止されています。 また、SNSやブログなどで仕事に影響を及ぼすような発言をしてはいけないなど、表現の自由が制限されます。
- 新しいことにチャレンジしにくい環境 公務員は法律や規則にしたがって仕事をしなければなりません。 そのため、新しいことを実行するには法的な制約があったり、さまざまな手続きをする必要があります。 また、公務の失敗やミスは許されにくいということもあり、新しいことに挑戦しにくい環境です。
また、獣医師に限っていえば、動物と触れ合う機会がほとんどない部署に配属される可能性もあります。
特に、公衆衛生関係の部署に配属されると、獣医学の知識を使う機会があまりないため、獣医師としてのやりがいを感じにくいかもしれません。
やりがいを感じるためには動物を中心に考えるのではなく、「地域住民の暮らしを守っている」という意識をもつことが必要だと思います。
やりがいがないわけではなく、やりがいの形が変わると言った方がいいかもしれません。
また、転職で後悔しないためには、このような情報収集以外に事前準備がとても重要です。
次の記事では、転職に失敗しないための事前準備についてまとめているので、ぜひあわせて読んでみてください。
公務員獣医師へ転職して年収はどうなった?
私は2度の転職で3つの動物病院を経験しましたが、いずれの病院も社会保険には入っていませんでした。
勤務地が都会で来院者数も多かった1つ目の病院が一番手取りは多く、2つ目と3つ目の病院はやや地方だったこともあり、転職によって収入は減ってしまいました。
実家から通勤していたので、少ないお給料でも何とかやっていけました。
その時のお給料は月20万円そこそこだったと思います。
そこから国民健康保険、国民年金、県民税などの税金を自分で納めていました。おおよそ5万円ほどです。
月によってもう少し少ないこともあった気がしますが、お給料の約1/4が税金で消えていました…(泣)
ボーナスなし、残業代はすずめの涙ほど…計算すると年収は250万円ほどだったのではないかと思います。
その後、院長への不信感と将来への不安を感じ公務員への転職を決意(詳しい事情はプロフィールに書いています)。
結果的に年収は200万円近くアップしました!
毎年棒給表に添って昇給し、残業代もボーナスも決められた額が支給されました。
以下は私の例ですが、キャリアチェンジによる主な生活の変化です。
- ワークライフバランスが向上 何よりも労働時間が大幅に減り(7時間45分勤務)、休日ゆっくり休めるようになりました。
- 給与が安定し、年収がアップ 「ちゃんと昇給するのか」「ボーナスは支給されるのか」という不安がなくなりました。 また、 規定どおりにお給料が支給され、年収は大きくアップしました。
- 人との交流が増えた プライベートな時間が増えたことで、友人と会ったり、興味のあるセミナーに参加したりできるようになり、人との交流が増えました。 また、さまざまな仕事に関わることで人との交流が増え、視野が広がりました。
- キャリアパスがある程度見通せてしまう お給料や休みが規定どおりにもらえることは公務員の大きなメリットですが、昇給や昇進なども規定どおりなので、自分の将来がある程度見通せてしまいます。そのため、仕事に対するワクワク感のようなものは感じにくくなりました。(あくまでも私の場合です ^^;)
最近は、能力や実績を個別に評価し、昇任や昇給に反映させる取り組みをする自治体も出てきています。(川崎市、港区、北九州市など)
公務員は高収入は望めませんが、経済的な安定と時間的なゆとり、家庭と仕事の両立を優先したい人にとってはピッタリの職場環境だと思います ^^
公務員への転職の流れを4STEPで解説!
まず、公務員になるためには公務員試験を受ける必要があります。
ここでは、公務員試験を受けるための準備から内定通知が届くまでの流れを解説します。
- 情報収集する
- 試験対策をする
- 公務員試験を受験する
- 内定通知が届く
STEP①:情報収集をする
獣医師の転職では情報収集がとても重要ですが、公務員への転職でもそれは同じです。
なぜなら、自治体によって受付期間、受験日、試験方法など、さまざまだからです。
以下は、一部の自治体の試験日程や試験内容をまとめたものです。(※令和6年7月時点の情報です)
- 埼玉県(令和5年度) 【受付期間】4/23~5/8 【年齢】~35歳 【一次試験】内容:論文試験(5/25実施)※令和6年から教養試験廃止 【二次試験】個別面接(7/2~5までのいずれか1日で実施)
- 神奈川県(令和5年度) 【受付期間】5/1~5/31 【年齢】~60歳、獣医師経験7年以上
【一次試験】小論文(7/28~8/3期間電子受付) 【二次試験】個別面接、人物考査(9/16又は17の指定する1日) - 北海道(令和6年度) 【受付期間】R6年5/13~R7年1/25 【年齢】~60歳 【試験】作文試験、面接試験(R6.5/24~R7.1/25※期間内毎月実施)
- 鹿児島県(令和6年度) 【受付期間】6/21~7/19 【年齢】R7年4月時点で49歳以下 【試験】適性試験(SPI)、口述試験(7/28実施)
東京都は一般方式と新方式で募集方法を分けていて、三次試験まで実施しています。
また、国家公務員への転職を考えている人は、受験する年度の4月1日時点で30歳未満であれば受験可能です。
このように、自治体によって試験日程や内容がちがってくるので、まずは希望する自治体の情報収集が必要不可欠です。
STEP②:試験対策をする
受験する自治体によって試験の内容が違うので、STEP①でしっかり情報収集をしておきましょう。
教養試験、専門試験、小論文ともに過去問をチェックして出題の傾向を把握しておくことが基本です。
少なくとも過去5年分、余裕があればさらにさかのぼって確認しておくと安心です。
実際に問題を解いてみて、苦手な分野は参考書を使って理解を深めるのがおすすめです。
小論文は、過去問でよく出題されるテーマや分野について、ベースとなる知識を身につけておくようにしましょう。
過去問だけではなく、小論文対策の参考書を利用するなどして、文章の構成や時間内にまとめる練習をしておくといいと思います。
また、面接ではキャリアチェンジの理由について説明できるようにしておきましょう。
面接では、採用後に辞めてしまわないかということも注意深く見られるので、キャリアチェンジの理由とあわせて仕事を続けていきたいという想いを説明できるようにしておきましょう。
STEP③:公務員試験を受験する
公務員試験の受験についても、自治体によって受験方法が違うので、STEP①でしっかり確認しておきましょう。
例えば、大阪府は受験申し込みをweb上で行っていて、返信されるメールから受験票をダウンロードする必要があります。
また、鹿児島県はSPI試験を実施していますが,東京都・福岡県・北海道会場希望者はWeb方式による試験,鹿児島市会場希望者は紙方式による試験と、受験会場によってやり方が異なります。
受験当日までに必要な手続きを済ませ、日程や受験方法に間違いがないよう気をつけることが大切です。
一次試験で、次の試験の案内があることもあるので、当日は試験だけではなく話もしっかり聞くようにしましょう。
STEP➃:内定通知が届く
募集要項にも記載されていますが、試験を受けてから数カ月以内に内定通知が郵送で届きます。
北海道のように随時募集している自治体は、受験後10日ほどで届くこともあります。
通知は採用・不採用にかかわらず、全員に郵送されることがほとんどです。
内定をもらうことができたら、その後どうすればいいのか指示が書かれているので、指示に従って準備を進めましょう。
そして内定をもらったタイミングで、退職手続を進めましょう。
次の記事では、退職前に準備しておくことや、退職日までの過ごし方について解説しているので、ぜひ参考にしてください。
公務員への転職で後悔しないために必要なこと
公務員へ転職して後悔しないためには、自分が仕事に何を求めているのか、どんな働き方がしたいのかという自己分析をしておくことです。
動物病院と公務員では、仕事内容も獣医師としての役割もまったく違います。
自分のやりたいことや望む働き方を、自分自身がしっかり理解していないと、公務員のメリットよりもデメリットを強く感じて後悔してしまう可能性が高いです。
自己分析は手間も時間もかかりますが、ミスマッチを防ぐためには効果的です。
また、自己分析によって仕事に求めることがはっきりしていると、面接での受け答えにも説得力が出ます!
次の記事では、自己分析をするメリットやポイントについて解説しているので、ぜひ参考にしてください。
まとめ
今回は、公務員獣医師の年収の目安や公務員のメリット・デメリット、転職で後悔しないために必要なことについて解説しました。
動物病院で働いていると、公務員のメリットばかりが目についてしまいがちですが、デメリットについてもしっかりと理解しておくことが大切です。
実際に、獣医師の役割の違いを理解せずに転職をして、仕事にやりがいを感じられずに辞めてしまう人もいます。
公務員への転職を検討している人にとって、この記事が参考になれば幸いです 。
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