他の動物病院の残業時間がどれくらいなのか知りたいな。
毎日残業でヘトヘト・・・
プライベートと仕事を両立させる方法が知りたい。
動物病院に勤務している獣医師の中には、残業続きの毎日に疲れてしまっている人も多いのではないでしょうか。
院長という立場であれば、多少の融通をきかせることもできますが、勤務医は病院の方針に従わざるをえません。
そのため、多くの勤務獣医師は、長時間労働のためプライベートを犠牲にしている状況です。
しかし、ワークライフバランスを向上させることは、獣医師個人だけではなく、動物病院という組織にとっても重要なことです。
この記事では、以下の4つについて詳しく解説します。
この記事を読むと、動物病院の残業の実態や、ワークライフバランスの重要性と改善方法がわかります。
長時間労働に悩む勤務獣医師の方は、ぜひ参考にしてください!
- 動物病院と公務員で3回の転職を経験
- 動物病院勤務では、平均14時間におよぶ長時間労働やトップダウンの経営方針に悩む。
- 結婚を機に退職し、現在は獣医師のキャリア形成について発信。
- 2児の母。
違法になる残業時間は?
法律上、何時間までの残業が可能で、何時間からが違法になるのでしょうか?
ここでは、残業時間の上限について解説します。
法律では、労働時間は原則1日8時間、または1週間に40時間までと定められています(法定労働時間)。
法定労働時間を超えて労働者を働かせる場合は、労使間で時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を結び、労働基準監督署への届け出が必要となります。
この手続きをすることで、月45時間、年360時間までを上限に残業をさせることができるようになります。
さらに、繁忙期や緊急で対応が必要になる場合には『特別条項付き36協定』を締結することで、一定の条件下で月100時間未満、年720時間まで残業が可能になります。
動物病院では、この月100時間未満、年720時間までという基準が適用されています。
労働基準法第36条第5項
- 時間外労働が月45時間を超えるのは年6回まで
- 時間外労働は年720時間まで
労働基準法第36条6項第2号、第3号
- 時間外・休日労働は月100時間未満
- 時間外労働と休⽇労働の合計は、複数月平均80時間以内 (「2か⽉平均」「3か⽉平均」「4か⽉平均」「5か⽉平均」「6か⽉平均」が全て1⽉当たり80時間以内)
動物病院の残業の実態は?
令和5年の賃金基本構造統計調査によると、獣医師の平均勤務時間と残業時間は以下のようになります。
年齢 | 所定内実労働時間(時間/月) | 超過実労働時間(時間/月) |
---|---|---|
20~24歳 | 161 | 42 |
25~29歳 | 164 | 38 |
30~34歳 | 159 | 15 |
35~39歳 | 167 | 15 |
40~44歳 | 178 | 31 |
※所定内実労働時間数:総実労働時間数から超過実労働時間数を差し引いた時間数
※超過実労働時間数:事業所で定められた所定労働日における始業時刻から終業時刻までの時間以外に実際に労働した時間数及び所 定休日において実際に労働した時間数
20代の残業時間が多いのは、新人は覚えることや学ぶことも多く、要領よく仕事をこなすことができないためと解釈できます。
しかし、それでも私はこの統計の残業時間は短いと感じます。
動物病院は午前と午後に診療時間を分け、その間3~4時間は休診としていることが一般的です。
しかし、その時間帯は休憩時間ではなく、手術や入院患者の処置を行うため、スタッフは休憩時間を取る間もないほど忙しく働いています。
以下は、私が勤務していた病院の事例です。
- 所定労働時間(週5日) 午前:8:00~12:00=4時間 (診療時間 9:00~12:00) 午後:16:00~20:00=4時間 (診療時間 16:00~19:00)
- 残業時間(週5日) 手術・処置:13:00~16:00=3時間 診療時間後:20:00~22:30=2.5時間 ※終業は22~23時になることが多かったため、中央値で22時半としました。
- 日曜日(所定労働時間?休日出勤?) 午前:8:00~12:00=4時間 (診療時間 9:00~12:00) 午後:13:00~18:00=5時間 (診療時間:休診)
- 有給休暇 毎月ではありませんが、月に1日有休消化していました。
⇒残業時間計
=平日残業(5.5時間×5日/週×4週/月)
+日曜日出勤(9時間×5日/週×4週/月)
=290時間
私が3つ目に勤務した病院は定休日がなく、週休1日でした。
たまに手術が入っていなくて、16時まで休憩時間となることもありましたが、それを差し引いても驚異的な残業時間です…(計算してみて自分でもびっくり!)
また、求人サイトの募集要項でも、固定残業代を40~45時間分支給する病院が多く見られます。
確かに、人材不足やコンプライアンス意識の高まりから、待遇面については改善傾向にありますが、それでも30代の超過実労働時間が15時間というのは少ないと感じます。
賃金基本構造統計調査は、様々な職種の獣医師の平均値なので動物病院で働く獣医師の残業時間を正確に表していない可能性があります。
残業が多くなってしまう理由
動物病院は、ペットの命を預かる特性上、残業が多くなってしまいやすい環境にあります。
残業が多くなってしまう理由として、以下の5つがあげられます。
①重症患者に時間がかかる
状態が重症の患者は、容態をモニターするため検査を頻回に行う必要があります。 エコーやX線造影検査をする場合は、検査時間も長くなり、人手も必要となるため、外来診療が滞る要因となります。
②入院患者の容態急変
入院患者の容態急変は緊急性が高く、その場で対応する必要があります。 発生が予想できない上に、エマージェンシー対応は人手を要し、外来診療の遅延につながります。
③急患の受け入れ
急患は、原因究明のために様々な検査を行う必要があり、患者の状態も重症なことが多いため、対応に時間がかかります。処置後も容態をモニターする必要があり、人手を必要とします。 また、診療時間終了間際に急患を受け入れた場合、検査や処置が終わるまで残業となります。
➃緊急手術
急患の受け入れや、入院患者の容態急変があると、緊急手術になることがあります。 診療時間内に緊急手術を実施する場合、人手不足から外来診療は滞りがちになり、診療終了後に緊急手術となる場合は、術後の容態が安定するまで残業となります。
⑤他病院との差別化のため
ペットの飼養頭数が減少傾向にある一方、動物病院の数は増加傾向にあります。そのため、他病院との差別化として、24時間診療の実施や診療終了後でも電話対応をする病院もあります。
また、急患や緊急手術などは残業時間が多くなるだけではなく、定期的に容態をモニターする必要があるため、担当患者の対応で休日出勤をする獣医師はとても多いです。
担当獣医師本人の意思もあると思いますが、スタッフの労働時間の管理や院内のサポート体制を整備することが、長時間労働を減らすためには重要だと思います。
問題は残業時間ではなく保障がないこと
残業時間を減らす仕組みや努力は必要ですが、生き物の命を扱う職業特性と、イレギュラーな状況に陥りやすいことから、動物病院においては残業をなくすことが難しいのも事実です。
問題の本質は、残業時間の過多ではなく、その労働に見合う適切な補償や報酬がないことです。
残業に対する代償がない理由としては、以下の4つがあげられます。
- 院長(経営者)の知識不足 経営についての知識が不十分なまま開業をしてしまう勤務獣医師が多く、十分に利益を上げられないため、スタッフに利益を還元できない状況です。
- 経営意識の欠如 動物病院は、勤務獣医師が開業をすることが多いため、多くの院長には経営者としてのマインドがありません。福利厚生の重要性や、利益を上げ、その利益をスタッフに還元するという経営者の視点が欠けていることが一つの要因です。
- やりがい搾取の体質 経験やスキルを磨くために、多くの獣医師は長時間労働と低賃金を受け入れてしまいます。 また、ペットの命を扱う職業特性から、そのやりがいのために長時間労働を許容してしまう傾向があり、獣医師業界全体でもそれが当然という風潮があります。
- 飼い主の支払い意識が低いため ペットの診療に対して飼い主の支払い意識が低いため、自由診療の動物病院は適正な価格設定ができない場合があります。 飼い主の意識や支払い能力に合わせた価格設定をする結果、利益を上げられず、スタッフに還元することができません。
また、近年は都市部を中心に動物病院の数が増え続け価格競争が起きています。
そのため、顧客(ペットの飼い主)を集めるために料金設定をおさえる必要があり、収益に結びつきにくい状況です。
また、長時間労働なのに低賃金という状況は、スタッフの離職につながり、人手不足からますます労働環境が悪化するという悪循環に陥りがちです。
スタッフを過酷な労働環境に追い込まないためには、勤務獣医師は開業をする前に、経営者としてのマインドや知識を身につけ、事業計画やマーケティング戦略を準備しておくことが必要です。
残業のデメリットとワークワークライフバランスの重要性
長時間働くことで多くの症例を経験し、スキルを磨くことができると考える人もいるかもしれません。
しかし、現在は少子化や女性の社会進出、働く側の価値観の変化などにより、ワークライフバランスの取れた働き方が重視されています。
ここでは、残業のデメリットとワークライフバランスの重要性について解説します。
残業のデメリット
長時間労働には以下のようなデメリットがあり、自分自身だけではなく、病院組織にとっても悪影響を及ぼします。
・心身の健康が損なわれる
睡眠不足や食生活の乱れ、運動不足などから生活習慣病のリスクが高まります。また、睡眠不足や精神的ストレスは、うつ病や不安障害などの発症につながります。
・仕事の質が低下する
長時間労働は集中力や判断力の低下につながり、ミスや事故につながりやすくなります。 適切な決定や判断ができない、集中力の低下により時間がかかるなど、全体的に仕事のパフォーマンスが低下します。
・人間関係が悪化する
ストレスによりイライラや疲労感が増し、コミュニケーションが円滑に進まなくなります。 過度の疲労から、些細なことで衝突したり、お互いに協力する意識が薄れるため、人間関係が悪化するリスクが高まります。
長時間労働により体調を崩し、離職してしまう獣医師は少なくありません。
離職者が増えれば、人手不足により、残されたスタッフはさらに長時間労働に陥ってしまいます。
病院側も、人材募集のための広告費や人材育成のための労力を必要とし、長時間労働は両者にとって大きなデメリットを生むと言えます。
ワークライフバランスの重要性
ワークライフバランスとは、仕事と個人の生活の両立を図り、両方をバランスよく充実させることを指します。
多くの研究結果が、ワークライフバランスの重要性を指摘していますが、その主な理由として以下の4つがあげられます。
- 仕事へのモチベーションが上がる ワークライフバランスが整いプライベートな時間が増えると、人生が充実していると感じやすくなります。そうした肯定的な気持ちから、仕事にも意欲的に取り組むことができます。
- 仕事の生産性が向上する 長時間労働によるストレスが軽減されることで、集中して仕事に取り組むことができるようになります。また、仕事に集中することでミスが減り、効率的に仕事を進めることができます。 さらに、仕事とプライベートのバランスが取れるとスタッフの満足度も上がり、離職者を減らすことができます。
- 多様な働き方ができる フルタイム勤務が難しい場合でも、働き方を選ぶことができればキャリアを継続することができます。 ワークライフバランスに取り組む企業や病院では、時短勤務やパートタイム勤務など、多様な働き方を選択でき、経済的な自立や自己実現をしやすい環境が整っています。
- 個人の成長を促す 心身のストレスが軽減されると集中力や判断力が上がり、経験を学びに生かすことができるようになります。また、リラックスする時間が増えると学習意欲も高まり、自身のスキルアップにつながります。
ワークライフバランスの取れた働き方は、個人の満足度を上げるだけではなく、雇用主側にとっても、仕事の質が上がり、離職者が減ることで人材の採用・育成のコストを減らすことができるなど、多くのメリットがあります。
また、女性は第一子出産を機に7割が仕事を辞めるというデータもあり、仕事と育児を両立できれば女性は離職せずに済み、人手不足の問題解決につながります。
ワークライフバランスの取れた働き方は、どちらにとってもwin-winとなるため、福利厚生を充実させて、働きやすい環境を整える企業や病院が増えてきています。
次の記事では、動物病院の福利厚生のチェックポイントについて解説しているので、ぜひ参考にしてください!
ワークライフバランスを向上させる方法
ワークライフバランスを実現するためにはどうしたらいいの?
長時間労働が常態化している動物病院勤務で、ワークライフバランスの取れた働き方を実現するためには、以下のような方法があります。
- 働き方を変える 動物病院の開業やフリーランスなど、個人事業主になることで働き方の裁量権を得ることができます。 また、コンプライアンス遵守の病院への転職や一般企業や公務員へキャリアチェンジすることで、ワークライフバランスを向上させることができます。
- 勤務形態を変える 時短勤務やパートタイム勤務などの選択肢がある場合は、勤務形態を変える方法もあります。 勤務形態の選択肢がない場合は、希望する働き方ができる病院へ転職することも一つの選択肢です。 (参考:獣医師におすすめの転職エージェント)
- タイムマネジメントをする 時間の使い方を見直すことで、仕事の効率化とプライベートな時間の確保ができる場合もあります。 (参考:休日を確保するための方法)
- 専門性を身につける 認定医や専門医資格を取得し、専門性を身につけることで、働き方の裁量権を得られる可能性があります。 働き方について院長(経営者)と交渉したり、フリーランスとして活躍する選択肢があります。
働き方や勤務形態を変えるために転職をする場合は、事前準備がとても重要です。
私は事前準備をせずに、条件だけで転職先を選んでしまったため、3回も転職に失敗してしまいました。。。
次の記事では、転職前にやっておくべきことについて詳しく解説しているので、転職を検討している人は、ぜひ参考にしてください。
まとめ
今回は、獣医師の残業の実態と、ワークライフバランスの重要性や改善方法について解説しました。
確かに多くの症例を経験することは学びになりますが、その学びを自分のものにし、仕事の質を上げるためにはワークライフバランスの取れた働き方を実現することがとても重要です。
また、昨今はペットの飼養頭数に対して動物病院の数が増え続けていることもあり、スキルを身につけるだけでは収入に結びつきません。
次の記事では、獣医師が収入を増やすためのポイントについて解説しているので、ぜひ今回の記事とあわせて参考にしてください!
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