ペットの飼養頭数はだんだん減ってきているみたいだけど、獣医師の需要や将来性はどうなるんだろう?
動物病院の数は年々増え続けているって聞くけど、開業の将来性ってどうなのかな?
獣医師を目指している人や、獣医師として働いている人の中には、獣医師という職業の将来性に不安を感じている人もいるかもしれません。
この記事では獣医師という職業の将来性や、今後獣医師の需要がどう変化していくのかについての見通しを解説します。
獣医師を目指す人や、すでに獣医師として働いている人は、獣医業界の今後の動向や世の中のニーズを理解した上で、自分がどんなキャリアを歩みたいのかを考えることが大切です。
獣医師の将来性に不安を感じ、どんなキャリアを選択すればいいのか悩んでいる人は、ぜひ参考にしてください。
- 動物病院と公務員で3回の転職を経験
- 動物病院勤務では、平均14時間におよぶ長時間労働やトップダウンの経営方針に悩む。
- 結婚を機に退職し、現在は獣医師のキャリア形成について発信。
- 2児の母。
獣医師の将来性と成長性は?
ペットの飼養頭数は頭打ちになり減少傾向にある一方で、動物病院の数や小動物臨床を希望する獣医師は増えてきています。
次のグラフはペットの飼養頭数の推移と、動物病院の数の推移、小動物臨床につく獣医師の数の推移をあらわしています。
供給過多ってこと?じゃあ将来性は期待できないのかな…
その点だけを見てしまうと、獣医業界の将来性や成長性に不安を感じてしまうかもしれません。
しかし、獣医師は専門性が高く、獣医師ではなければできない内容の仕事もたくさんあります。
そのため、時代の変化に対応していけば、今後も十分将来性や成長性が見込めます。
そう考える根拠を、次に4つあげたいと思います。
- ペットにかける費用は増加傾向にあるため、ペット医療は今後も必要とされる
- ペットの高齢化や飼い主の意識の高まりにより、高度医療の需要が高まる
- 家畜保健衛生や家畜感染症の予防・対策を行う公務員獣医師の役割は変わらず重要
- 診療へのAIの導入が進み、技術を使いこなせる獣医師が必要とされる
予測①:ペット医療の需要は継続的
経済的な理由や少子高齢化でペットの飼養頭数は減ってきていますが、ペットに対する意識の高まりから、ペットフードなどのペット関連の支出や動物病院にかける費用は増加傾向にあります。
動物病院にかける費用はコロナ禍後に一時的に減少していますが、2023年には再び上昇に転じています。
とはいえピーク時にの数字まで及ばないのも事実で、ここからはあくまでも予測となってしまいます。
ペット関連支出をみると、コロナ禍後にあってもこちらは上昇傾向を維持しています。
つまり、景気の上下に関わらずペットを家族とみて大切にする意識が強まっていることをあらわしています。
そのため、飼養頭数の減少=成長性がないと単純にとらえるのは間違いで、社会のペットに対する意識の変化や飼い主のニーズをくみ取ることで、将来性や成長性は期待できるのではないかと思います。
予測②:動物病院経営は二極化する
動物病院の存在はこの先も必要とされ将来性や成長性が期待できますが、すべての動物病院が生き残れるわでけではありません。
ペットにかける費用が増えているとはいえ、ペットの絶対数が減っているのは事実です。
つまり生き残るためには、飼い主から選ばれる病院になる必要があるということです。
そのため飼い主に選ばれる病院と、そうでない病院の格差は今後ますます広がっていくのではないかと予測できます。
また、かかりつけとしての一次診療病院は引き続き必要ですが、高度専門医療に対応できる二次診療施設の需要はさらに高くなっていくと思われます。
そのため、小規模な病院と二次診療施設に該当する大規模な病院の二極化が進み、専門知識をもった獣医師の需要も高くなっていくことが考えられます。
次の記事では、獣医業界が抱える問題が獣医業界の今後におよぼす影響について解説しているので、ぜひあわせて読んでみてください。
予測③:産業動物獣医師の需要は引き続き高い
産業動物獣医師の役割は、家畜の診療や治療をとおして安全な畜産物を消費者に提供することです。
食の安全に直結する仕事なので、国や自治体も獣医師の役割を重要視しています。
高病原性鳥インフルエンザ、豚熱、口蹄疫など特定家畜伝染病が発生した場合は全頭処分の対応になり、農家の生活にも市場の供給にも大きな影響をおよぼします。
そのため、感染症を未然に防ぐ対策や予防が必要不可欠で、獣医師としての役割はとても重要です。
畜産が盛んな地域では産業動物獣医師が一定数必要ですが、獣医師が不足している地域は少なくありません。
農林水産省の調査結果では、平成29年4月時点で平成32年度の産業動物獣医師の確保目標達成状況は、確保目標を設定している41道府県のうち、18府県が目標達成、23道県は未達成でした。
このことからも、産業動物獣医師の需要は引き続き高く、将来性も十分期待できるのではないかと思います。
予測➃:AI導入による獣医師の役割の変化
動物病院でもデジタル化がすすみ、診療業務が効率化されてきています。
レントゲン検査のデジタル化により撮影にかかる時間が短縮され、電子カルテにより情報を共有しやすくなり、カルテ自体を探したり取り出す手間がなくなりました。
動物病院ではまだ先になりそうですが、人の医療ではAIが画像診断やデータ分析を通じて医師をサポートする役割も果たすようになってきているようです。
ただ、AIはあくまでもサポート的な役割で、最終判断や治療方針を決めるのは人です。
こうした流れは動物医療にも影響をおよぼすのではないかと思っています。
それは、こうしたAI技術を使いこなせる高度な知識や技術をもった獣医師の需要が高くなるとも言えます。
動物医療でも手術ロボットの登場や、データに基づく診療、特定の地域に縛られないリモート診療など、診療業務だけではなく獣医師の働き方も大きく変わる可能性もあるのではないかと思います。
また、高度医療のニーズが高くなっていることから、がんや糖尿病、自己免疫疾患などの治療につながるバイオテクノロジー技術や再生医療分野も今後発展していく可能性は十分考えられます。
つまり、そうした分野で高度な専門知識をもつ獣医師が今後ますます必要とされるのではないかと思います。
獣医師の働き方は変わりつつある
小動物臨床に進んだ場合、動物病院に勤務して下積みをし、ある程度経験やスキルが身についたら開業する、という流れが今までは一般的でした。
女性は結婚や出産を機に辞めるか、パートナーが獣医師であれば動物病院を家族経営する形が一般的だったのではないかと思います。
しかし、人手不足などの理由を背景に、獣医師の働き方は次のように変わっていくのではないかと予想しています。
- フリーランス獣医師の増加
- 働き方の多様化
- ワークライフバランスの向上
働き方の変化①:フリーランス獣医師の増加
特に都心部で言えることですが、動物病院は飽和状態にあるため開業のリスクは高くなってきています。
そのため、開業ではなくフリーランスという働き方が注目されています。
フリーランスにもリスクはありますが、自分の裁量で労働時間を調整できたり、開業のように銀行から多額の融資を受ける必要がなく、金銭的に低リスクです。
また、麻酔専門医や画像診断専門医など、特定の分野に特化することで動物病院に非常勤で派遣されるケースが増えています。
動物病院を経営する側としても、獣医師を一人雇うよりも状況にあわせて対応してくれるフリーランスの利用価値は高く、需要は増加傾向にあります。
次の記事では、フリーランス獣医師のメリットとデメリットについて解説しているので、ぜひ参考にしてください。
働き方の変化②:働き方の多様化
パートタイム勤務や時短勤務などの勤務形態が、ここ10年ほどで一般的になってきました。
フリーランスという働き方もそうですが、他の病院をかけ持ちしたり、動物病院以外の場所で副業をするケースも増えてきています。
オンラインでペットの健康相談を受けたり、動物関連のコンテンツを執筆するなど、インターネットの普及で副業のハードルも下がったことが後押しとなっています。
病院側も、人手不足や経験豊富な獣医師を確保するために、副業やダブルワークを認めているところもあります。
柔軟な働き方が選択できるようになれば、獣医師も自分の求めるキャリアを築きやすくなるため、メリットは大きいと思います。
また、雇用する側も優秀な獣医師に来てもらいたいという意識がより働くようになることで、獣医師がより働きやすい環境が整っていけば、動物業界も前進していくのではないかと期待しています(個人的に)。
次の記事では、獣医師におすすめの副業スタイルについて開設しているので、ぜひ参考にしてください。
働き方の変化③:ワークライフバランスの向上
動物病院での仕事は長時間労働なうえに、心身のストレスも大きくハードな仕事です。
また、残業代が正しく支払われなかったり、休日出勤がサービス出勤になるなど、法律に違反する労働を強いられていることも珍しくありません。
しかし、近年は人手不足を背景に、法律を遵守する意識が高まってきています。
雇用条件や労働環境が悪いと募集しても人が集まらないし、来たとしてもすぐに辞めてしまうことが大きな理由です。
私が勤務していた病院も、当時は社会保険に入っていませんでしたが、今は労働保険(雇用保険、労災保険)に加えて健康保険と厚生年金が整備されています。
転職エージェントから聞いた話や自分の体感としても、私が働き始めたころよりも福利厚生を整備する病院は増えてきているように感じています。
今後もこうした流れは強くなり、スタッフに福利厚生を提供できる経済力のある大規模な病院が増え、動物病院経営が二極化する要因の一つとなるのではないかと思います。
次の記事では、動物病院の残業の実態やワークライフバランスを向上させる方法について解説しているので、ぜひ参考にしてください。
獣医師として将来性のある働き方とは?
どんな働き方が、獣医師として将来性があるのかな?
自分がつきたい職種の将来性について知っておくことは重要なことです。
ただ、将来性があるという理由だけで仕事を選んでしまうと、結果的に仕事にやりがいが感じられなくて後悔したり、働き続けることが辛くなってしまいます。
まずは、獣医師として将来どんなことを成し遂げたいのかや、どんな働き方がしたいのかなど、自分の仕事軸をしっかりと理解することが重要です。
そのうえで、獣医師として 世の中に求められていることを実現していくことが大切で、それこそが将来性のある働き方なのではないかと思っています。
例えば、都心部では動物病院は飽和状態と言われていますが、自分の成し遂げたいことや、望む働き方が都心部で開業することなら、自分の希望を叶えながらその場所のニーズにこたえられる方法や手段を考えることが大切です。
次の記事では、仕事の軸となる部分も含め、自己分析をするメリットやポイントについて解説しているので、ぜひあわせて読んでみてください。
まとめ
今回は、獣医師という職業の将来性や、今後獣医師の需要がどう変化していくのかについての見通しについて解説しました。
獣医師は今後もさまざまな分野で重要な役割を果たしていくのではないかと思います。
大切なことは、将来性ありきでキャリアを選ぶのではなく、自分の求めるキャリアを時代のニーズにそった形で実現することです。
獣医師の将来性に不安を感じている人や、どんなキャリアを選ぶべきか悩んでいる人に、この記事が参考になれば幸いです。
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