獣医師ってコスパが悪いって聞いたことがあるけど、どうしてなのかな?
「獣医師はコスパが悪い」と人から言われたり、ネットで目にしたりして、獣医師を目指す人や勤務獣医師として働いている人の中には将来性に不安を感じたことのある人も少なくないと思います。
実際に獣医師のコストパフォーマンスが良いのか悪いのかは、その人の状況や価値観などに左右されます。
ただ、コスパをどれだけ重視しているかに関わらず、「コスパが悪い」と言われる背景を知っておくことはとても重要です。
この記事では、獣医師を目指す人や獣医師業の将来に不安を感じている勤務獣医師に向けて、次の3つを解説します。
- 獣医師はコスパが悪いと言われる理由
- 医師と比較した獣医師のコストパフォーマンス
- 将来を不安視する獣医師がとるべき対策
この記事を読むと、獣医師はコスパが悪いと言われる理由や医師と比較した獣医師のコストパフォーマンスがわかり、将来どのような対策をとるべきなのかがわかります。
獣医師になりたい!獣医師を続けたい!・・・でも将来が不安と感じている人は、ぜひこの記事を参考にしてください!
- 動物病院と公務員で3回の転職を経験
- 動物病院勤務では、平均14時間におよぶ長時間労働やトップダウンの経営方針に悩む。
- 結婚を機に退職し、現在は獣医師のキャリア形成について発信。
- 2児の母。
獣医師はコスパが悪いと言われる理由
獣医師は女子小学生の「将来ないたい職業」ランキングトップ10の常連で、幼い頃からの夢を叶えるため獣医師を目指す人も実際多くいます。
しかし、一部の人は獣医学部の受験を親から反対されたり、「コスパが悪い」という情報を目にして、獣医師の将来性に不安を感じている人もいます。
なぜ獣医師はコスパが悪いと言われるのでしょうか?
その主な理由として、次の4つがあげられます。
- 学費が高い
- 自由診療の影響
- 市場の需給バランスに左右される
- 労働に対して低収入
理由①:学費が高い
獣医学部の6年間の学費は、国立大学で約350万円、公立大学で460万円~470万円、私立大学で1,300万円~1,460万円ほどです。
入学金(円) | 授業料(円/年) | 実験実習料 (円/年) | 設備費 (円/年) | その他徴収金(円/年) | 6年間合計(円) | |
---|---|---|---|---|---|---|
国立大学 | 282,000 | 535,800 | 3,513,800 | |||
公立大学 (大阪府立大学) | 382,000 ※「大阪府民及びその子」に該当の場合282,000 | 535,800 | 4,736,800 ※「大阪府民及びその子」に該当の場合4,636,800 | |||
酪農学園大学 | 300,000 | 1,710,000 | 140,000 | 340,000 | 74,000 | 13,559,000 |
北里大学 | 300,000 | 1,500,000 | 530,000 | 13,125,000 | ||
日本大学 | 260,000 | 1,500,000 | 300,000 | 350,000 | 40,000 | 13,400,000 |
麻布大学 | 250,000 | 1,800,000 | 450,000 | 14,154,740 | ||
日本獣医生命科学大学 | 250,000 | 1,300,000 | 200,000 | 420,000 | 330,000 | 13,800,000 |
岡山理科大学 | 220,000 | 1,500,000 | 280,000 | 500,000 | 14,680,000 |
2024年1月時点で公開されている金額です。
金額は変更されることもあるので、HPなどで最新の情報を確認してくださいね!
国立大学は入学料・授業料が文部科学省により規定されているため、一律同じ金額になります。
それに対して私立大学は、どこの大学に進学するかで費用に差があり、6年間で国立大学の4倍以上の費用がかかります。
さらに大学生活でかかるのは学費だけではありません。
獣医学部は全国で17校しかないため、地方の大学に通うことになれば一人暮らしの選択をしなければならない場合もあります。
居住地域によりかかる生活費に多少の差はあると思いますが、年間120~200万円、6年間では720~1200万円程度の生活費が必要となります。
生活費だけでも高額・・・
その他にも、教科書代や白衣や聴診器などの雑費もかかってきます。
獣医学部は履修科目も多く他学部に比べて忙しいので、アルバイトでまかなうにも限界があります。。。
以下のグラフからもわかるように、卒業までに6年を要するため、医学部ほどではないにしろ他の理系学部よりも多額の学費がかかります。
それでは、6年間大学で学び獣医師の免許を取得した後、どのくらいの収入が得られるのでしょうか?
次の表は、令和4年の賃金構造基本統計調査を参考に、調査対象の企業の平均年収と獣医師の平均年収を比較したものです。
年齢 | きまって支給する 現金給与額 | 年間賞与その他特別 給与額 | 年収 | |
---|---|---|---|---|
産業計(非役職) | 25~29歳(27.5歳) | 284,800円 | 712,000円 | 4,129,600円 |
獣医師 | 25~29歳(27.8歳) | 322,100円 | 425,200円 | 4,289,200円 |
やや獣医師の年収の方が高く算出されていますが、私の肌感覚としては新卒の年収は300~400万円ほどではないかと思います。
その理由は次の記事で解説しているので、ぜひ合わせて読んでみてください!
上記の表の通りだとしても、6年間でかかった学費の回収率が他学部より低いことは明らかですよね。。。
理由②:自由診療の影響
人の医療では公的保険制度による保険診療が採用されているのに対し、動物病院は自由診療です。
保険診療は、健康保険に加入していれば3割の費用負担で、どの医療機関であっても同じ内容の診療を同じ金額で受けることができます。
一方、自由診療では各医療機関で自由に金額を設定できるため、同じ内容の診察、治療内容でもかかる費用が異なります。
そして公的な保険制度もないため、費用は全額自己負担となります。
そのため、自由診療は治療の選択肢が増えるというメリットがある一方、費用が高額になるというデメリットが存在します。
しかし、近年動物病院の数が増加傾向にある一方で、動物の飼養頭数は減少傾向にあります。
そのため患者さんを獲得することを考えると、闇雲に診療費を高くすることができません。
また、IT技術の発展に伴い、テレメディシンなどの導入が一般的になることで、診療頭数が減少してしまう可能性も考えられます。
理由③:市場の需給バランスに左右される
ペットの飼養頭数は経済動向やライフスタイルの変化に影響を受けます。
最近では、コロナ禍により在宅時間が増えたことで、ペットの需要が一時的に増えました。
このように、時代の変化や出来事により、ペットの需要は変化するリスクを抱えています。
動物の飼養頭数は、上記でも触れたように2008年をピークに減少傾向にあります。
次のグラフからもわかるように猫はほぼ横ばいながら、犬の飼養頭数は明らかに減少しています。
それに対して動物病院の数は増加傾向にあるため、需給バランスが崩れることで自由診療による価格競争が激化するリスクを抱えています。
患者さんを獲得するためには闇雲に診療費を上げることができず、その結果病院の収益も上がらないため従業員にも還元されないのです。
動物病院、特に個人経営の病院は厳しい時代を迎えると予想されます。。。
獣医業界の抱える課題については、次の記事で詳しく解説しているので、ぜひ合わせて読んでみてください!
理由➃:労働に対して低収入
獣医師はコスパが悪いと言われる大きな理由の一つが、労働に対する収入が低いことです。
上記の令和4年の賃金構造基本統計調査からは極端に収入が低いようには見えませんが、勤務獣医師の労働時間は平均13~14時間にも及びます。
緊急手術が入り帰宅が日をまたぐこともあったり、休日出勤も珍しくありません。
さらに、そういった時間外労働が給与に反映されない(=残業代が出ない)こともよくあることです。
最近ではコンプライアンス意識の高まりにより、きちんと法律に則った対応をする病院が増えてきているようですが、まだまだやりがい搾取の傾向は残っています。
勤務医時代、職場の先輩獣医師が労働時間に対する時給を計算したところマックのアルバイトの方が時給がよかったということがありました。。。
また、個人経営の動物病院では、開業時の多額の設備投資も大きな負担となります。
日本の動物病院では海外のように専門化、分業化が進んでいないため、血液検査機器から手術用機器、エックス線撮影装置、エコーなど多くの設備をそろえることがスタンダードになっています。
その数千万円にも上る開業資金の返済のため、従業員の労働が給与に反映されない一因となっています。
獣医師vs医師、コスパがいいのはどっち?
診療の対象が人か動物かという違いはありますが、同じ医療に携わる立場として医師と獣医師を同列で考える人も少なくありません。
それでは、コスパの面では医師と獣医師のどちらが優れているのか比較してみたいと思います。
私立獣医学部における学費の総額は平均1,380万円ほどです。
それに対して私立医学部における学費の総額は平均3,250万円ほどになります。(参考:医学部受験ラボ)
医学部も獣医学部も国立大学は文部科学省の規定により、学費に関しては同額です。
同じ6年間の大学生活を送るにしても、獣医学部より高い学費がかかる医学部ですが、社会人になってからの収入はどれくらいになるのでしょうか?
次の表は、令和4年の賃金構造基本統計調査をもとに、医師と獣医師の平均年収を比較したものです。
年齢 | きまって支給する 現金給与額 | 年間賞与その他特別 給与額 | 年収 | |
---|---|---|---|---|
医師 | 44.1 | 1,096,100円 | 1,135,700円 | 14,288,900円 |
獣医師 | 37.8 | 494,700円 | 929,800円 | 6,866,200円 |
平均すると、獣医師の年収は医師の約半分だと言えます。
収入だけを見ると医師の方がはるかに高給ですが、獣医師より学費がかかっていることを考えると単純に獣医師の方がコスパが悪いとも言い切れません。
ただ、医師は医師免許取得後大部分の人が医師として臨床現場に入るのに対し、獣医師の進路は多岐に渡ります。
大学卒業後約4割の人は臨床獣医師として動物病院に就職しますが、他にも公務員として公衆衛生に携わったり、産業動物の診療や一般企業で研究職に就く人もいます。
動物病院を開業して成功すれば、一般的な医師より多くの収入を得ることも可能ですが、獣医師としての職業が多岐に渡るという点で収入にばらつきがあり、総じて医師より年収が低い結果につながる一因になっているのではないかと思います。
獣医師はフリーランスや派遣など、医師に比べて多様な働き方があります。
自分のライフスタイルに合った働き方が選べるのは1つのメリットですね!
次の記事では、獣医師の職種と年収の目安について解説しているので、ぜひ参考に読んでみてください。
収入面から見ると医師の方が獣医師よりはるかに高収入ですが、医師でも臨床医を辞めてしまう人もいれば、獣医師でも開業して億単位の収入を得ている人もいます。
医師と獣医師、どちらのコスパがいいのかは個々の状況と価値観によるところが大きいと言えるでしょう。
コストを重視しない人もいるので一概に優劣をつけられませんが、本人の努力次第なのは間違いありません。
獣医師の将来性は?
勤務獣医師だと高収入は見込めないし、開業するにもリスクが大きそう・・・
獣医師の将来性ってどうなのかな?
ペットの飼養頭数が減少傾向であることに加え、動物病院の数は増え続けていることから、競争の激化が予想されます。
勤務獣医師を続けるにしても、開業の選択をするにしても、患者さんに選ばれる病院(獣医師)であることが重要です。
それでは、どうしたら患者さんに選ばれる病院(獣医師)になることができるのでしょうか。
次に、その主な対策を4つ解説します。
対策①:スキルを磨く
1つ目の対策は、スキルを磨くです。
次のグラフは、ペット関連の年間支出の推移を表したグラフです。
ペットの飼養頭数は減少傾向にある一方、2021年にはやや減少したもののペット1頭当たりにかける費用は増加傾向にあります。
そのことにより、高度な医療に対する飼い主のニーズが高まっていることがわかります。
実務で経験を積み、自分のペットによりよい治療を受けさせたいという飼い主の要望に応えられるスキルを身につけることは必須とも言えます。
日々の診療を「こなす」だけではなく、一つ一つの症例から学ぶ姿勢がとても重要です。
対策②:専門性を身につける
2つ目の対策は、専門性を身につけるです。
人の病院では専門分野が別れていますが、多くの動物病院は専門分野に特化せずに下痢や嘔吐などの内科疾患から皮膚や眼に至るまで総合的な診療を行っています。
専門分野に特化しにくい理由としては、次のようなことがあげられます。
- 複数種の動物を診なければならないため、総合的な医療が求められる
- 個人経営の小規模な病院が多く、専門医を雇う経済的余裕がない
- 専門分野の分業が進んでいないため、専門医自体の数が少ない
- 重症化して来院した場合、かかりつけの病院で緊急対応しなければならない
人と同じような医療インフラが整っていないことも一因として考えられます。
しかし、今後他の病院と差別化するためには、専門性を身につけ特定の分野における需要に応えることが重要になってきます。
高度な医療に対するニーズの高まりから、「最寄りじゃないけど専門の病院に診てもらえると安心」と考える飼い主さんが増えると考えられます。
対策③:新技術や治療法を導入する
3つ目の対策は、新技術や治療法を導入するです。
最新の技術や治療法を取り入れることで、診療の幅を広げ、患者さんへ高い価値提供をすることができます。
例えば、異物を誤嚥してしまった場合、一般的には開腹手術で取り出します。
しかし内視鏡を持っていれば、把持鉗子で取り出せる種類のものであれば麻酔や開腹の必要はなく、動物にとっても負担が少なく済ませることができます。
獣医療も日進月歩なので、新技術や最新の治療法などは積極的に取り入れ選択肢を増やすことで、飼い主さんのニーズを満たすことにつながります。
対策➃:経営スキルを上げる
4つ目の対策は、経営スキルを上げるです。
獣医師として日々診療に携わりながら、同時に経営も行うことは決して簡単なことではありません。
一般企業では経理や労務として独立した部門が設置されていますが、個人経営の動物病院では、院長が日々の診療をこなしながらその全てをやらなければなりません。
- 院内の統率が取られず、スタッフ間のトラブルが発生
- 労務管理がずさんで、残業時間が過労死ラインを超える
- コンプライアンスが遵守されず、時間外労働に対する報酬がない
上記のような例は、本当によく聞く話です。
動物病院を経営する立場になったら利益を常に意識することが必要で、やりがい至上主義の気持ちのままでは立ち行かなくなってしまいます。
利益を生み出し、それをスタッフや患者さんに還元することで高いホスピタリティが生まれるということを心に留めておく必要があります。
地域の動物を一頭でも多く救いたい!という自分の信念を優先して、診療を退き経営に専念する院長もいます。
まとめ
今回は、獣医師がコスパが悪いと言われる理由や医師と比較した獣医師のコストパフォーマンス、動物病院の将来性に不安を持つ獣医師がどのような対策をとるべきなのかについて解説しました。
私は獣医師という職業は、伴侶動物としての長い歴史や人の意識や価値観の変化などから、今後もとても重要な位置づけであり続けると思っています。
コスパありきで考えるよりも、先ずは獣医師としてどうありたいかという姿勢が、ゆくゆくは収入に結びついていくのではないかとも感じています。
そのためにも動物業界だけにとらわれず、様々な情報を取り入れ視野を広く持つことがとても重要です。
この記事を参考に、ぜひもう一度将来獣医師としてどうありたいかについて考えてみてください!
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