獣医師っていったら動物の診療をするイメージだけど、それ以外に獣医師にしかできないことってあるのかな…
獣医師の仕事というと、動物病院での診療のイメージが強いですよね。
しかし、獣医師は専門性の高い職業なので、動物の診療以外にも獣医師にしかできないことがいくつかあります。
薬理学、病理学、毒性学、感染症学、公衆衛生学…など、大学で学んだ知識を使ってさまざまな分野で獣医師は活躍しています!
この記事では、進路に悩む獣医学部生や、転職やキャリアチェンジを考えている獣医師に向けて、獣医師独自の役割について解説します。
獣医師としてのやりがいを知りたい人や、自分のスキルをどう生かすか悩んでいる人は、ぜひ参考にしてください。
- 動物病院と公務員で3回の転職を経験
- 動物病院勤務では、平均14時間におよぶ長時間労働やトップダウンの経営方針に悩む。
- 結婚を機に退職し、現在は獣医師のキャリア形成について発信。
- 2児の母。
獣医師にしかできない4つの専門的な役割
獣医師の役割は動物の健康や福祉を守ることだけではなく、人の生活にも深く関わっています。
狂犬病に代表される人獣共通感染症の予防は、人の命を守ることにつながっています。
また、菌や薬品に汚染されていない食肉を流通させることも、人が安全に生活するためには重要なことです。
生活するうえで、人と動物は密接に関わっているといえますね。
そのため獣医師の活躍の場は幅広く、それぞれで獣医師にしかできない仕事が存在します。
- 動物の診療・治療
- 産業動物の健康管理
- 公衆衛生分野への貢献
- 研究・教育分野への貢献
役割①:動物の診療・治療
獣医師の仕事として動物病院での診療をまっさきに思い浮かべる人も多いと思います。
犬猫以外にも、牛や豚などの産業動物など飼育動物における医療行為は、獣医師法に基づいて獣医師でなければできないことになっています。
牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずら、その他獣医師が診療を行う必要があるものとして政令で定めるもの。
苦しんでいる動物を救うことができるのは、獣医師として大きなやりがいを感じますね。
また、動物にとってだけではなく、動物の診療や健康管理は人の生活の質を保つことにも関係しています。
たとえば、動物にノミ・ダニがつかないように予防したり、寄生虫を駆除することは、動物だけではなく人にとっても衛生的な生活を送るうえで重要ですよね。
このように動物の診療や治療は、動物自身を救うだけではなく、人の生活にも間接的に貢献しています。
役割②:産業動物の健康管理
産業動物の健康管理は、動物の命を守るだけではなく、畜産農家の生活に直接影響を及ぼします。
特定の病気が発生した場合は全頭処分になってしまうこともあるため、産業動物の飼育現場では衛生管理や防疫対策がとても重要です。
飼育環境や健康を管理することで病気の蔓延を防ぎ、繁殖効率や生産性を上げることで農場経営に貢献することも獣医師の重要な役割です。
産業動物はペットではないので、獣医師の役割としては動物の健康管理をとおして、消費者に安心・安全な畜産物を提供することになります。
ただ、健康で快適な環境で飼育された動物は、結果的に生産性も高くなります。
そのため、産業動物の獣医師として、動物福祉に貢献することにやりがいを感じている人もたくさんいます。
役割➃:公衆衛生分野
獣医師が関わる公衆衛生業務としては、次のようなものがあります。
- 人獣共通感染症の予防・管理 空港・港での動物の検疫や、海外からの病原体の侵入を未然に防ぐ役割を担っています。 輸入食品が国内の基準に適合しているかどうか審査し、必要に応じて検査を行うなど、食品監視業務を行います。
- 食肉検査 と畜場や食鳥処理場で目視での生体検査や、細菌検査や理化学検査、病理検査などを行い、安心・安全な食肉を消費者に提供することに貢献しています。
- 動物医薬品に関する業務 動物医薬品検査所では、動物医薬品の承認審査やワクチンの検定、薬剤耐性対策などの業務を獣医師が行っています。
検疫所や動物医薬品検査所は獣医師以外の人も働いていますが、獣医師の専門知識が必要なため、一定数獣医師を採用しています。
獣医師の知識が必要とされるという点では、獣医師にしかできないことがあると言えます。
公衆衛生分野に関しては法律で定められている部分や、公共の利益に通じるため、多くは公務員の仕事になっています。
役割⑤:研究・教育分野
後進の獣医師を育てることは獣医師にしかできないことです。
また、獣医師が必要とされる研究分野も数多くあります。
たとえば、特定の病気を再現した動物モデルを使って、治療薬やワクチンの効果を検証する役割は、獣医師の知識と技術が必要です。
亡くなった動物の病理検査や解剖を行い病気の原因を特定することも、獣医師にしかできない重要な役割です。
製薬会社など民間企業だけではなく、国や自治体でも研究分野に獣医師が必要とされています。
次の記事では、獣医師が活躍する7つの就職先について詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
獣医師だからこそ感じる仕事のやりがい
動物の診療や健康管理、感染症の予防などは、命を左右することもある責任の重い仕事ですが、その分やりがいも大きい仕事です。
ここでは、獣医師だからこそ感じる仕事のやりがいについて解説します。
やりがい①:動物の命を守る
診療や治療によって動物の命を守ることができるのは、獣医師のやりがいの一つです。
ケガや病気で苦しんでいる動物を目の当たりにしたり、何とかしてあげたいのにどうすることもできない状況は、自分自身もつらいですよね。
そのため、目の前で苦しんでいる動物を救うことができるのは、獣医師の最も大きなやりがいです。
そして動物が回復して元気になった姿を目にしたり、飼い主さんの笑顔を見ることができるのは、獣医師としてなによりも嬉しい瞬間です。
次の記事では、臨床獣医師のやりがいや魅力について詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
やりがい②:人の生活を守る
獣医師というと動物の健康や福祉を守っているイメージが強いかもしれませんが、人の生活にも大きく貢献しています。
産業動物の健康管理や食肉検査などの仕事は、私たち消費者に安全な食肉を提供するためであり、感染症を防ぐことは私たち人間が安心して暮らすために必要不可欠です。
また、ペットの診療にかかわる獣医師は病気やケガの治療だけではなく、動物のしつけや健康管理をとおして人と動物が快適に生活できるようサポートする役割も担っています。
このように獣医師の仕事は、動物をとおして人の生活を豊かにしている側面もあり、社会的意義の大きい仕事と言えます。
やりがい③:人と動物の共生に貢献
獣医師は、診療や治療をとおして直接動物を救うこともでき、動物をとおして人の生活も豊かにしています。
つまり、動物への貢献と人の生活への貢献は、それぞれがお互い深く関係しあっているのです。
例えば、苦しんでいる動物を治療することは、動物自身だけではなく、飼い主さんを精神的に救っていると言えます。
また、ワクチン接種や寄生虫の予防は動物だけではなく、感染症の蔓延を予防し、人の生活環境も衛生的に保つことにつながっています。
安心・安全、かつ質の良い畜産物を流通させるためには、動物にとってストレスの少ない環境を整えることが必要で、結果的にそれが動物の福祉に貢献しています。
野生動物の保護や診療行為に至っては、自然環境の多様性の保護、種の保存などにつながっていると言えますね!
まさに獣医師という職業は、動物と人が共生するためになくてはならない存在といえるのではないかと思います。
自分にあったキャリアの見つけ方
獣医師にしかできないことはわかったけど、自分のスキルをどの分野で生かせばいいのかやっぱり悩んじゃうな…
獣医師は専門性が高く、さまざまな分野でその知識をいかすことができるため、逆にどのようなキャリアを歩めばいいのか悩む人も少なくありません。
しかし、例えば動物病院での仕事と公務員の仕事では、獣医師としての役割も働き方も大きく異なります。
そのため、自分に向いていることと自分のやりたいことが違う場合は、ミスマッチを起こしてしまう可能性が高くなります。
ミスマッチを起こさないためには、次の3つのポイントをおさえておいてください。
- 自分自身を深く理解する
- 仕事に求めるものを明確にする
- 情報収集をする
①:自分自身を深く理解する
自分自身を深く理解することがミスマッチを防ぐ第一歩です。
例えば、動物が好きだから、直接触れ合える仕事がしたいからと動物病院での仕事を選ぶ人は多いと思います。
しかし、その先の「動物の診療をとおしてどんなことを実現したいのか」「獣医師としてどうありたいのか」や、さらに「なんのために働くのか」といったことまで掘り下げて考えている人は少ないと感じています。
つまり、働く目的や仕事に対する価値観、さらに言えば人生の目的や それを実現するための手段について認識していないとミスマッチを起こしたり、結局自分は何がやりたいのかと悩んでしまう可能性もあります。
私がかつて勤務した病院では、院長がいくつかのブリーダーさんと懇意にしていました。
そうすることで新たな飼い主のもとに引き渡された後も、患者として来院してもらうためです。
もちろん、それ自体は問題ないのですが、中にはより小さな個体を生み出すために無理な出産をさせているブリーダーさんもいました。
患者さんではありますが、ブリーダーさんのやっていることを正当化しているようで、当時はとても違和感がありました。
さまざまな診療も任せてもらえて勉強になる反面、病院のやり方にモヤモヤすることもありました。
そのため、スキルや経験だけではなく、自分が仕事に対してどんな価値観をもっているのかを知っておくことはとても重要です。
自分の価値観について知るためには、どんな方法があるか知りたいな…
自分の価値観を洗い出すためには、次のような方法があるので参考にしてください。
- 過去の経験を振り返る
- なぜなぜ分析
- 日記をつける
方法①:過去の経験を振り返る
過去の出来事のなかから、「充実していた」「やりがいを感じた」と思える瞬間を振り返ってみてください。
いくつかピックアップできたら、それらの共通点を探してみましょう。
誰かと一緒に何かをやり遂げた、誰かに喜んでもらえた、コツコツ続けていたことが結果につながったなど、出来事の共通点から自分の価値観が見えてくると思います。
また、逆に「嫌だったこと」「避けたかった」と感じる出来事についても振り返ってみることも有効です。
なぜ嫌だったのかについて掘り下げて考え、嫌だったことの共通点を見つけることで、自分が何を大切にしているのかや、譲れないポイントを知ることができます。
例えば、残業が多いことが嫌だったとしたら、「プライベートな時間を大切にしたい」「メリハリをつけて仕事をしたい」という価値観がある可能性があります。
方法②:なぜなぜ分析
なぜなぜ分析は、自分自身に「なぜ?」と繰り返し問い続けることで、問題の根本的な原因を探る方法です。
大体5回繰り返すと原因がわかると言われていますが、問題の内容によっては6回以上必要になることもあります。
自己分析として利用する場合は、自分が納得できるまで「なぜ」を繰り返し問い続けてみることも必要です。
以下に、自己分析でのなぜなぜ分析の具体例をあげてみたいと思います。
「安定した仕事につきたい」
- なぜ安定した仕事がしたいのか? ⇒収入や雇用が安定していると安心だから
- なぜ収入や雇用が安定していると安心なのか? ⇒将来の不安が減るから
- なぜ将来の不安を減らしたいのか? ⇒家族を安心させて、生活の心配をせずに過ごしたいから
- なぜ家族を安心させ、生活を心配せずに過ごしたいのか? ⇒リスクを取るより、家族や自分が居心地よく過ごせることが一番大切だから
この分析の場合、安定志向の奥に「家族を大切にする」「安心して暮らす」という価値観があることがわかります。
このように、なぜなぜ分析は表面的な理由の奥にある根本的な価値観を導き出してくれるため、キャリア選択や自分の中の判断基準の軸を知るためにとても有効です。
方法③:日記をつける
日記は自分を客観的に分析することができるので、自己分析のツールとしておすすめです。
日々さまざまな思いや感情を感じても、具体的に何に対してそう思ったのか、なぜそう感じたのかと認識することなく終わってしまうことがほとんどだと思います。
日々の出来事に対して自分がどんな反応をし、どう感じたかを記録することで、自分の感情を客観視しやすくなります。
どんな状況で満足感を得て、どういうことが起きるとストレスを感じるかがわかるため、自分が大切にしていることや求めていることを知るためにとても効果的です。
自己分析では、価値観以外にも自分の性格や強み・弱み、適性など、さまざまな方向から自分自身について掘り下げることが大切です。
次の記事では、自己分析のメリットやポイントについて解説しているので、ぜひ参考にしてください!
②:仕事に求めるものを明確にする
自己分析の一環になりますが、仕事に求めるものや、仕事をとおしてどんなことを成し遂げたいのかということを理解しておくことも重要なポイントです。
自分の中の仕事の位置づけがあいまいなまま、興味本位で仕事を選んでしまうと、「職場が合わない」「想像と違う」と感じてミスマッチを起こしてしまう可能性が高くなります。
実際私は、『獣医師免許を生かして動物病院でスキルを身につけたい』という考えで就職を決めてしまったせいで、キャリアの方向性に随分悩むことになってしまいました。
失敗の原因は、なんのためにスキルを身につけるのか、スキルを身につけて獣医師として何を成し遂げたいのか、というその先のゴールが見えていなかったことです。
また、何のために働くのかという点についても深く考えたことがなく、仕事に何を求めているのかという仕事軸のようなものもありませんでした。
仕事をするのはもちろん生活をするため、お金を得るためでもありますが、それだけなら獣医師ではなくてもいいはずですよね。
自分の中での働くことの位置づけをしっかりと理解し、自分のキャリアを長期的な視点でみることができていたら、それほど不安や悩みを抱えることもなかったのではないかと思っています。
とはいえ、悩んだこともよい経験だったと今では感じています ^^
次の記事では、キャリア設定の手順について詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください!
③:情報収集をする
情報収集は、ミスマッチを防ぐために必要不可欠です。
なぜなら、情報が不足していると、限られた情報の中から自分の進むべき道を選ばなければならないからです。
もちろん、その中に自分の能力を発揮できる職場があれば問題はありません。
しかし情報が少ないと、ベストな職場が他にあるのに、限られた情報の中から「まし」な選択をするしかなくなってしまいます。
そのため、どれだけ情報収集できるかがミスマッチを減らすポイントといえます。
さらに言えば、職場の雰囲気や、スタッフ間の人間関係、院長の人柄、表面化されない暗黙のルールなど、水面下の情報をいかに収集できるかが、ミスマッチを減らすことにつながります。
インターンに参加したり、実習に行って体感することはとても重要ですが、全てを把握しきれないことも多いですよね。
その点で、採用側の内情を知る転職エージェントの利用価値はとても高いと言えます!
次の記事では、私が実際に利用しておすすめだと感じた転職エージェントについて徹底レビューしています。
情報収集に利用できるだけではなく、転職エージェントを利用するメリットは他にもたくさんあるので、ぜひ参考にしてください。
まとめ
今回は獣医師にしかできないこととして、獣医師の独自の役割や仕事のやりがい、自分に合ったキャリアの見つけ方のポイントについて解説しました。
獣医師には活躍の場が数多くあります。
スキルを生かせる場所がたくさんあり社会的に必要とされる職業ではありますが、それゆえにキャリア選択に悩んでしまう人も少なくありません。
この記事が、進路に悩む獣医学部生や、転職やキャリアチェンジを考えている獣医師の方の参考になれば幸いです。
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